好物日記

本を読んだり美術館に行ったりする人の日記

2023年回顧

この間年が明けたと思ったらもう暮れてしまった。
それでも2023年は、2022年よりも人間らしい生活ができたのではないかと思っています。中でも『現代SF小説ガイドブック 可能性の文学』『SFマガジン10月号 特集「SFをつくる新しい力」』にブックレビューを載せていただけたことは、2023年のみならず、私の人生全体でもかなりの大きな出来事でした。関わらせていただいた皆様、本当にありがとうございました。

というわけで、毎年恒例の今年のベスト本を記録しておきます。ルールは以下。
(1) 2023年に刊行された本ではなく、あくまでも私が2023年に読んだ本の中から選んでいます。
(2) ベストテンというほど厳密な順位付けがあるわけではなく、タイミングによって順位変動が発生しうることがあります。
(3) 読書メーターによれば、2023年に読んだ本は82冊。ここには、文学フリマで入手した同人誌は含まれません。(来年は100冊くらいは読みたいものだ)

では行きましょう。

1. ハーマン・メルヴィル千石英世訳)『白鯨』(講談社文芸文庫
ずっと読もうと思っていた一冊だったという思い入れ加点もあってランクイン。非常に好みでした。長編小説の良さというのを再認識させられた。長さが必要な場合があるのだ。
感想はこちらに書いています。

2. 青島もうじき『私は命の縷々々々々々』(星海社FICTIONS)
あまりに好きすぎて言葉に迷い、まだブログに感想を書けていないのですが、とっても良かったです。私は大人になってからこの本を読んだけど、10代のころの自分がこれを読んでいたら、きっとまんまと踏み外していたと思う。かわいくてファンタジックな顔をしていながら、内容はすごく挑戦的なところが好きです。

3. 松波太郎『そこまでして覚えるようなコトバだっただろうか?』(書肆侃侃房)
青山ブックセンターでなんとなく気になって買って読んで、めちゃくちゃ衝撃的だった短編集。コトバも人間もどう足掻いても不完全で、右往左往しながら生きるのだ。
感想はこちらに書いています。二作目の「イベリア半島に生息する生物」が一番好きと書いているけど、今振り返ると一作目の「故郷」の味わい深さを反芻したくなる。

4. 朝比奈弘治『夢に追われて』(作品社)
装丁の美しさもさることながら、全16篇の完成度の高さに度肝を抜かれた一冊。「蕎麦殻の枕」の恐ろしさには震えた。「クダアリの話」「間男」「丘の上の桐子」「山荘日記」あたりの静かな狂気がたいへん好みでした。
クノーの翻訳もされているとのことなので、ぜひ読んでみなくては。来年の課題本にしよう。

5. マリアーナ・エンリケス(宮﨑真紀訳)『寝煙草の危険』(国書刊行会
最高でした。装丁も気合入っていてとても好き。短編集なのですが、良作ぞろいなのもすごい。なんという完成度。
清潔ではない肉体を引きずって、くだらない世界を彷徨うしかない私たちだけど、何か一つでもキラキラしたものがあればそれをよすがに生きていけるかもしれない。ということを感じた。めっちゃよかった。

6. 後藤明生『挟み撃ち』(講談社文芸文庫
雑誌「代わりに読む人」準備号でその存在を知り、ずっと読もうと思っていてようやく読んだ一冊。文学っていいものだなって思い出させてくれた長編小説でした。信頼の講談社文芸文庫
感想はこちらに書いています。今読み返したら、後藤明生の叢書が刊行されていると記事に書いていますね。一冊買ったけど、まだ全冊揃えられていないし、まだ読めていない。今後のお楽しみということで。

7. ジェフリー・フォード(谷垣暁美訳)『最後の三角形: ジェフリー・フォード短篇傑作選 (海外文学セレクション)』(東京創元社
『言葉人形』ですっかり魅了されてから、ずっと待ってたジェフリー・フォードの新刊!相変わらずめちゃくちゃうまい。
物語の王道として、成長する主人公を導く役目を担う登場人物が存在することが多いけれど、フォードはその導き手の描き方が異様に上手いように思う。「トレンティーノさんの息子」に出てくるハンターとか。作者の目論見通り踊らされる読者に甘んじるのも悔しいのですが……いいんだよなぁ。

8. 郝景芳(及川茜・大久保洋子訳)『流浪蒼穹』(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
2022年に出ていながら読みそびれていたのを今年読んだのですが、めちゃくちゃよくてですね。郝景芳、これまで短編しか読んだことなくて、それでもいいなって思っていたけど、『流浪蒼穹』で好きな作家のひとりになった。異なる二つの考え方のどちらにも良し悪しはありうるという描き方がフェアだった。起きてしまったことは変えられなくても、未来は自由であるはずで、進みたい未来は作り出せるはずだという前向きなメッセージがすごく良い。

9. ジェニー・クリーマン(安藤貴子訳)『セックスロボットと人造肉 テクノロジーは性、食、生、死を“征服"できるか』(双葉社
まず、著者の意見に賛同できない部分があることを表明しておきます。とはいえ私の興味のある内容だったので、すごく面白かったし、いろいろ考えるきっかけになった。賛同できない意見が書かれているからこそ興味を持って読むのだともいえる。
技術は日進月歩だから、今はもっと実用化が進んでいるのではないか。こういうジャンルの本は、一年に一冊くらいは読んでおきたい。
感想はこちらに書いています。

10. 能仲謙次榛見あきる武見倉森揚羽はな菊地和広渡邉清文稲田一声『トランジ 死者と再会する物語』(同人誌)
文フリで買った「故人AI x 不死化社会アンソロジー」、これめっちゃ好きなんですよ。生前の記録をもとにAIが死者を再現するサービス<共同墓地>が実用化した近未来の話で、ゲンロンの講座出身者6名が同じ世界観を共有して書いた短編が集められています。なんていうか、テーマ設定が私の好み過ぎた。巻末に世界観年表もついているので妄想も捗ります。個人的には表紙の紙質がすべすべで手触りいいのもポイント高いです。
感想はこちらに書いています。



以上です。ほかに特に気に入った本としては下記がありました。名前だけ挙げておきますね。ほんとはもっとあるけどな!
・マシュー・ベイカー(田内志文訳)『アメリカへようこそ』(KADOKAWA
・春暮康一『法治の獣』(ハヤカワ文庫JA
・春暮康一『オーラリメイカー〔完全版〕』(ハヤカワ文庫JA
・川野芽生『無垢なる花たちのためのユートピア』(東京創元社
・アンソロジー『絶縁』(小学館
・イサク・ディーネセン(桝田啓介訳)『バベットの晩餐会』(ちくま文庫
三島由紀夫豊饒の海』(新潮文庫


おおむね読書量も回復してきたし、来年はもっともっといろんなものが読みたいなと思っています。読んだことがないようなものを読みたい。ジャンルもなるべく広くして、思想的な偏りがないようにしたいと思っています。

本年は皆様のおかげで大変楽しい一年でした。来年もよろしくお願いいたします。