好物日記

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ねじれ双角錐群『よだつ』を読みました

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2023年11月11日(土)に行われた文学フリマ東京37にて入手した、文芸同人・ねじれ双角錐群によるアンソロジー『よだつ』を読みました。

ねじれ双角錐群さんはテーマを掲げたアンソロジーをほぼ毎年刊行されていて、毎回楽しみにしています。今回のテーマは《ホラー×毛》とのことで、ブースもホラージャンルに置かれていたようです。私は開場早々は自サークルのブースにいたのですが、売り切れを恐れて仲間に頼んで買ってきてもらい無事に入手。なので直接ねじれ双角錐群さんのブースを訪ねてはいないのですが、実際に読み始めて、大事なことに気づいてしまった。

私は日本のホラーが苦手なんでした。

英国ホラーや怪奇小説の類は全然いけるんですけど、日本のホラーは生活と密着しすぎていて、めちゃくちゃ怖くてダメなんでした。読み始めて気づいた。初っ端の「えいべさん オーディオコメンタリ版」がめちゃくちゃ怖くてですね……。でも昼間の電車の中で読んでいたのでなんとか読み切った。夜の寝室で読んでたらやばかった。あと、2作目以降は方向性がちょっと違うので、日本のホラーが苦手な私でも難なく面白く読めてよかったです。

しかし毎回のことながら、表紙が良いな。今回のテーマはただの《ホラー》ではなく《ホラー×毛》というのがポイントですね。そういえば私が小学生のころ、なぜかトイレに黒々とした髪の毛の束が落ちていたことがあったな……あれ何だったんだろうな……絵に描いたようなホラーすぎて当時は深追いしなかったけども。

ちなみにねじれ双角錐群さんの過去のアンソロジーの感想は下記記事に書いています。よろしければご一緒にどうぞ。
kinokeno.hatenablog.com
kinokeno.hatenablog.com


以下、『よだつ』の各作品の感想を書いています。ネタバレは伏せていますが、未読の方はご注意ください。


01 「えいべさん オーディオコメンタリ版」 cydonianbanana
前述のとおり、本書の中で一番私を怯えさせた作品。いやほんと怖いんですって!!! ザ・ジャパニーズホラー!
撮影後に監督が失踪した短編ホラー映画のオーディオコメンタリー版。呪いのビデオは王道ですよね。そしてこれはDVDなどではだめで、ビデオであってほしい。さらに、できればデジタルではなくフィルム撮影であってほしい。なんかそっちのほうが似合う内容の映画描写でした。
でもさすが呪いのビデオ、めちゃくちゃ怖かったです……。いや、最初はいいんですよ。撮影技法とかのほほんと喋ってて、でも途中からだんだん雲行きが怪しくなる。あ、だめだ、思い出し怖い。
読みながら、しまったー! と思ってたけど、ほんとにこれが一番怖くて、あとは問題なかったです。諦めずに読み進めてよかった。日本のホラー苦手な人は読書環境にご注意ください。


02 「カルマ・アーマ」 小林貫
大学のサークルのバーベキューで奇妙な女の先輩に目を付けられる男の子の話。怪奇小説っぽいので、これは大丈夫だった(個人の感想です)。
先輩の秘密を知るところで風向きが変わったな、と思ったけど、それだけでは終わらずにさらにハンドルを切るところがとてもよかったです。そっちかー!
登場人物の名前にも元ネタがありそうだけど、私にはわからなかった……マヨギさんは真菰かな、とは思うけど、だからなんで?と言われると、なんでだろ。
でもマヨギさんの趣味、わからなくはないよな。


03 「取材と収穫」 笹幡みなみ
ホラー小説のネタ収集のため、SNSの長年の知り合いの怪談収集家に話を聞きに行く話。
構成がすごくうまかった。「ぼく」の一人称と怪談収集家の語りが交互にくるのがテンポが良くてすいすい読ませる。特に、途中で挟まれる実話怪談の説明のくだりがわかりやすく、しかも後によく効いていて素晴らしかった。うまいなぁ。
ちなみに複数の実話怪談が作中で語られるのですが、三つめがやはり良いんですよね。確かに、良くできた怪談だ。えっ、でもこれ創作なんですよ、ね……? この「悪くない怪談」「良くできた怪談」も創作なんで、すよ、ね……?


04 「恢覆」 国戸醤油市民
植物状態になりつつ意識はある男性の話。
ディティールでちょくちょく笑わせにくるんですが、ダイナミックなホラーであり、ジャパニーズホラーではないので大丈夫でした。なんかこんな洋画ありそうじゃないですか。ホラーというよりもパニックもの? 後半からの疾走感が良かった。
感動のラストの皮をかぶっているけど別に感動でもなんでもないところが好きでした。はた迷惑で良し。


05 「毛想症」 Garanhead
特殊な性癖を持っている男性の話。
「カルマ・アーマ」と同じタイプといえばそうなんだけど、こっちのほうがサイコスリラー度が高い印象。サイコ系はいいですよね。映像だとビビるけど、文字ならセーフです。サイコ系のミステリは割と好んで読みますし。「えいべさん」と双璧を張る正統派《ホラー×毛》だったなという印象です。サイコはいいですよね。
個人的には蒸発訓練がツボで、車を走らせているときの場面が好きでした。頑張るなぁ。


06 「きざし」 鴻上怜
職探し中の男性が後頭部を気にする話。
日常の描写がめちゃくちゃうまくて、特に食事の場面が素晴らしかったです。食事の場面は何を食べるか(作者が登場人物に何を食べさせるか)をいつも興味深く見ている。茹でたブロッコリーとか食べるタイプなわけだ。鶏肉ではなく豚肉なのね。サーモンとアボガドのカルパッチョなんておしゃれなものは作ったんだろうか、妻が買って帰ったんだろうか。
私にとってはあんまり怖くない話だったけど、後頭部の話はそれだけで十分ホラーになりうる話題なのかな……


07 「新田くんのこと」 石井僚一
初出社の朝を迎えた新田君の話。
洗面台の前で髪の毛をワックスで撫でつける新田君が初々しくてかわいいなぁとのほほんとしていたら全然かわいくなかった罠。
けど「毛想症」のサイコとも毛色が違う作品でどちらかというとマジックリアリズム系か? ラストでちょっと混乱しました、というか正直今もしている。刑務所どこいった?
ちなみにこれまで読んだ石井さんの作品(「忘れられた文字」「森/The Forest」)は下敷きになる作品があって、それを本歌取りしていく印象が強かったんですが、これも何かのオマージュ作品なんだろうか。私にはわからなかったけど、なんかありそうな気もする。



ひとつのテーマに対するバリエーションの広さはさすがねじれ双角錐群さんという印象でした。
楽しませていただきました! 一作目でビビって読むのをやめなくてよかった。次号も楽しみにしています。