2023年春に開催された文学フリマ東京36で入手した、翻訳サークル「翻訳ペンギン」さんの『翻訳編吟 12』を読みました。
2022年秋の文学フリマ東京で初めて入手して、面白かったので今回も買った翻訳アンソロジーです。今回は全8編が収められていました。内訳は以下。
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アルジャーノン・ブラックウッド『事前従犯』(野島 康代 訳)
ロバート・バー『バルコニーの麗人』(青山 真知子 訳)
アルフレッド・コルベック『狂ったコンパス』(こはら みほ 訳)
ウィラ・キャザー『ウィリアム・タヴェナーの心情』(小椋 千佳子 訳)
ジュリアス・ロング『遅れてきた会葬者』(青山 真知子 訳)
トマス・バーク『麗しきお化けたち』(伊東 晶子 訳)
フランク・R・ストックトン『ブラー&ポディントン協定』(斎藤 洋子 訳)
アルジャーノン・ブラックウッド『ライオンを巡る冒険』(伊東 晶子 訳)
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ブラックウッドに始まりブラックウッドに終わるアンソロジーでした。ブラックウッドは昔、光文社古典新訳文庫の『秘書奇譚―ブラックウッド幻想怪奇傑作集』を読んで面白かった記憶があります。その他に『翻訳編吟11』でも名前を見かけた著者の作品もあり、だんだん馴染みになっていくのがうれしい。未来の私のために、それぞれ簡単に感想を書いておきます。ネタバレを含む可能性がありますので、未読の方はご注意ください。
■アルジャーノン・ブラックウッド『事前従犯』(野島 康代 訳)
徒歩旅行で道に迷った男性が十字路の分岐点で白昼夢を見る話。
忍び寄る怪異の不気味さとラストの「あああー!」という感じが王道英国ホラーという感じ。主人公マーティンの心臓ばっくんばっくんしてそうなところで私の心臓も最高潮でした。「事前従犯」ってそういうことか……
■ロバート・バー『バルコニーの麗人』(青山 真知子 訳)
ヴェネツィアからフィレンツェに逃亡した貴族青年が逃亡先のバルコニーで美しい女性に出会う話。
ちょっとこの青年が呑気過ぎるのではないかと気が気ではなかったが、案の定であり、案の定であることを楽しむタイプの作品でした。しかしバルコニーの美女は望みを果たしたけど、決して幸せそうに見えないところがポイントですね。
■アルフレッド・コルベック『狂ったコンパス』(こはら みほ 訳)
同僚三人組の休暇旅行で乗った船のコンパスが突如狂ってしまう話。
悠々自適のジョン閣下殿が出てくるだけで場が和むし、見ていてほのぼのする。自分がこうはなれないことをわかっているので余計憧れるのだ……。コンパスが狂った事件の謎解きはおまけのようなもので、ひたすらジョン閣下殿のふるまいが面白かった。こんな人になりたい。
■ウィラ・キャザー『ウィリアム・タヴェナーの心情』(小椋 千佳子 訳)
きびきびした妻に頭が上がらない裕福な商人ウィリアム・タヴェナーがサーカスの思い出を妻と語り合う話。
著者のウィラ・キャザーって『翻訳編吟11』で『ピーター』が掲載されていた著者であることをさっき知り、納得。古き良き時代のいかにもいそうな家庭の一幕。『ピーター』のラストも好きでしたが、これもこれで余韻があっていいなぁ。
■ジュリアス・ロング『遅れてきた会葬者』(青山 真知子 訳)
一番大切な友人の葬儀に出かけようとして自身の身体の軽さに驚く老人の話。
これは読み始めたときから皆さんお気づきでしょう?なんならあらすじ読んだときからそういう話だろうなってわかりますよね?ラストの驚きを楽しむというよりも、ラストまでの道中の景色を楽しむタイプの作品だ。訳注の葬儀場のコメントで19世紀後半のアメリカの葬儀事情がうかがい知れて面白かったです。
■トマス・バーク『麗しきお化けたち』(伊東 晶子 訳)
新しく借りた快適な家で決まった時間に決まったシーンを演じるお化けが出る話。
「とても行儀がよく、見た目も麗しく、誰もが家に置きたいと願うようなお化けのふたり組」という描写がいいなぁ。私の家にも置きたいけれど、ちょっと狭いからお招きするのは憚られるな。お化けを鑑賞するための適切な距離を保てるほど広くはないのが残念だ。ユーモラスで面白かった。
■フランク・R・ストックトン『ブラー&ポディントン協定』(斎藤 洋子 訳)
馬が好きで海が嫌いなポディントンと、海が好きで馬が嫌いなブラーの二人が休暇で互いの別荘を訪れる話。
ストックトンは『翻訳編吟11』で『フレッド・ハンフリーズの未来の三輪車』書いてた人か!きっとストックトンは馬も海も好きなんだろう。
馬と海の組み合わせで、彼らの休暇に何が起こるかはまぁ予想がつくので、これも道中を楽しむタイプの小説です。お互いが災難に遭った時の説明が妙に理屈っぽくて笑ってしまった。
■アルジャーノン・ブラックウッド『ライオンを巡る冒険』(伊東 晶子 訳)
見習い記者がサーカスから脱走した人食いライオンの記事を書くために奮闘する話。
ブラックウッドに終わるアンソロジーのトリ。やっぱり全体的にうまくまとまっているところがさすがだ。記者連中が現場を張るのにいいポジションを求めて屋根裏に上ったはいいけど、ライオンの咆哮が聞こえるとこぞって高いところに上ってしまう場面が特に、コミカルで映像的で面白かった。ラストのオチも、まぁそうだよねと納得できるものがちゃんと種明かしされているのもよかった。
毎晩一日一編ずつ読んで楽しんでいませいた。次号もお待ちしております!