好物日記

本を読んだり美術館に行ったりする人の日記

パナソニック汐留美術館「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢展」に行ってきました

panasonic.co.jp

美術館・博物館は月曜休館のところが多いのですが、パナソニック留美術館は水曜日が休館日です。ちょうどいいサイズの美術館で、好みの展示が多い。
というわけで、月曜日休みを利用して展覧会に行ってきました。今やっているのは、ブルーノ・タウトからイサム・ノグチに至るまで日本を舞台としたモダンデザインに関する展示です。めっちゃ好み!!!最高でした。

ブルーノ・タウト桂離宮を大絶賛した話とか、剣持勇がその思想を引き継いだこととか、井上房一郎との出会いとか、レーモンド夫妻との協力とか、そこからジョージ・ナカシマとイサム・ノグチへつながっていく流れなど、よく整理されていてわかりやすかったです。
家具というのはそれが置かれる空間があってこそ、という前提を大事にしている展示だったと思います。すごくうれしい。家具の値打ちはデザインや素材だけではないのだ。畳の上に置くか、フローリングに置くか、絨毯に置くかで雰囲気はがらりと変わる。天井の高さは?窓の位置と陽の当たり具合は?
だから家具を観るときにはその家具が置かれている空間全体を観る必要があると思うのですが、展覧会ではなかなか難しいものです。でも今回はその家具が置かれていた空間の映像が大画面で流されていたので、配慮してくれているなぁという印象がありました。目の前の椅子がどのように配置されていたのかのイメージが湧くので、とてもありがたい。
できれば実際に建物に行くのが一番いいんですけど、そうそう気軽にどこでも行けるわけではないですし。それにこういう機会に気になる建物や人を新たに知ることもできるので、やっぱり展覧会は良いものだ。

展示された椅子や机を見ながら、タウトに始まる日本のモダンデザインの何が好きなのか考えたのですが、多分私は彼らが大事にした木のぬくもりが好きなのだと思う。あの手触りと、木目の多様さと色合いに惹かれる。
電気とガスの便利さを知ってしまった我々は、それがない生活にはもう戻れないけど、木や竹のぬくもりをすべて捨てる必要はないはずだ。新しい技術と馴染みのある素材を上手く融合させた美しい家具を手に入れたいものです。
パナソニック留美術館の建物にはパナソニックのリフォーム部門のモデルルームもあるので、ここで美しい暮らしの気分を高めてショールームに来てもらおうという期待もあるのか?しかし暮らしに美を求める姿勢はぜひとも広まってほしいので、お金を出せる人はいくらでも出してしまえよ、とも思う。
私自身も、広い家に住みたいという欲求はずっとあるけど、そうなるとどうしても都心を出るしかないのだろうか。アパートやマンションではなく一軒家で一人で暮らすのはあまりにリスキーなのだろうか。美しい家に住みたいという欲求は、都心の集合住宅でどれくらい実現可能なものだろうか。とはいえ人生は一度だから、やりたいことは全部したいし、欲しいものは全部欲しい。最強の家に住むために、できうる限りのことはしよう。

そういえばユートピアを目指す共同体についてのキャプションで、タウトが社会主義者だったことを知りました。心地のいい共同体というのはどうしても排他的な面を持たざるを得ないということについて最近ずっと考えているので、ちょっと気になる。「そうである人の集まり」はそうでない人を排斥するものだけど、タウトらの夢見た共同体の構成員はどういう人を想定していたのだろうか。

そしてやっぱり戦後の建築では、丹下健三の名前は必ずと言っていいほど出てくるんだなというのを再確認。岡本太郎や猪熊源一郎にホテルや市庁舎の壁画を依頼したりして、パトロン的な役割も果たしているのが面白い。
欲を言うなら、イサム・ノグチ以後のデザイナーや建築家の紹介があると嬉しかったです。彼らの思想を受け継いで現在活動している人がいるはずなので、そういう人たちの名前が知りたかった。これから椅子とか照明とか買うときの参考にできたらな。土の中にいる人に追いすがってばかりいたって仕方がない。彼らはもうこれ以上新しいものを作れない。
うーん、もっとアンテナ張っておかねば。

全体的に構成がしっかりしていて、人の紹介が丁寧だったのが印象的でした。巡回展示になっていて、一番最初が高崎市美術館なのは納得(井上房一郎が高崎の実業家で、レーモンド設計の旧井上邸も高崎市美術館の管轄)。メインでキャプション書いているのは高崎市美術館の住田常生さんでしょうか、単なる説明ではない、良い文章でした。構成は前田尚武さん、2018年に森美術館で「建築の日本展」を手掛けた方とのこと。なるほどなぁ、プロですな。すごく計算された雰囲気を感じたもんな。今は京都市美術館にいらっしゃるようで、やるな京都市、いい人捕まえたな。この人が関わる建築系の展覧会は面白そうだ。行ってみたいなと思わせるものがありました。思想を感じる。新しいことしてくれそう。
じっくり観ていたら2時間近くかかりました。キャプション多いので満足感がある。とても楽しかったです。2020/3/22まで。