好物日記

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東京国立博物館「工藝2020 自然と美のかたち」に行ってきました

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ものっっすごく久々の東博に行ってきました。事前予約制になっていて、週末でもゆったり観られるのは嬉しい。到着時刻が読めなかったので直前に予約したのですが、割と枠が空いていました。現役で活動中の方々の作品が一堂に会すると聞いたので、これは行かねばならんと思っていたのですが、無事に観に行けてよかった。
ちなみに東博では特別展が二つ同時に開催されていて、一つは平成館の「桃山――天下人の百年」、そしてもう一つが表慶館の「工藝2020」です。ほんとは一度に両方観たかったんですが、チケットが別になっていたので日を改めることにしました。平常展も観たいもんね。

展示ジャンルは陶磁器、蒔絵、金工、漆工、竹工、染物、人形などなど。展示室は4つのゾーンに分かれていますが、作品分野ではなく、テーマカラー的な作品イメージで分けているようです。なのでどのゾーンも作品のバリエーションが多くて楽しい。
展示作品数は82件、制作年は2001年以降に絞り、出品者はだいたい見た感じ還暦過ぎの大御所揃いのようです。まぁ伝統工芸の世界で還暦なんてまだ若いほうですよね……。
なお普段の私の好みは陶磁器、漆工、螺鈿細工あたり。ただ好きな分野の展示はいそいそ出かけるけど、あまり馴染みのない分野はこういう機会でもないとなかなかお目にかかることがないので、良い機会でした。

どういうところに飾ると映えるかを考えながら観ていたのですが、いろいろ妄想してとても楽しかったです。やっぱり大きな作品には大きな空間が必要だ。温泉旅館、料亭、シティホテルのロビー、銀行の応接室。いやもっと開かれたところに置くべき? 市庁舎のロビー、百貨店のディスプレイ。でも茶碗はひっそりとした雰囲気で、少人数で回して鑑賞したい。
私は美術館博物館の類が好きだけど、展示される作品たちはもっとふさわしい居場所があるだろうなと思うことはしばしばあります。仏像仏具は寺へ、襖は城へ、茶器は茶室へ。ここに出品された作品の多くは個人蔵で、本来は展示ではなく、別の方法で愛されるものなんだろう。この展示室は作品たちにとっては仮の住まいなのだ。この展覧会が終わったら、それぞれ落ち着ける場所で本来の魅力を存分に発揮してほしい。そして願わくば私は、その本来の場所でこの作品たちを観てみたい……展示を観ているとき、どんなに直に触れたかったことか。
もっと、こう、生きた姿で鑑賞できたらな、と思う。その作品のためだけの空間をつくるくらいの贅沢さを、ちょっとやってみたいですよね。城の形式の美術館とか、あればいいなぁ。私に、彼らを連れて帰るだけの甲斐性が無くて残念だ。家も狭いしな。


さて、展示作品すべてについてここで語るのはちょっと厳しいのですが、いくつか気に入った作品について書いておきます。

まず最初の展示ゾーンで、月岡裕二の切金砂子彩箔「凛」に度肝を抜かれた。カラーの花を描いたもので、ジャンルとしては截金(きりかね)というらしい。花が浮き上がっていた。横から見てもそんなに凹凸がありそうに見えなかったんだけど、どうなっているんだろう。すごく触りたかったけど我慢しました。公式サイトをみると盛り上げ技法を使っていると書かれているので、やっぱり多少は凹凸があるのかな……とても美しかったです。

向こう側が見通せるような構成の作品は単純に面白くて、例えば宮田亮平の「生と静」(金工)や友定聖雄の「A Silent Voyage」(ガラス)など。後ろからも観られるように展示してあるので、ぐるっと回ってまじまじと見てました。どっちが前とか、一応あるんだろうけど、どちらから見ても面白い。横から見るのも面白い。

なお今回出品されててとても嬉しかったのが、14代今泉今右衛門の「色絵雪花薄墨墨はじき雪松文蓋付瓶」です。陶磁器の中でも豪奢でありながらエレガントな鍋島焼が特に好きで、14代今泉今右衛門の雪花墨はじきは初めて目にした時からずっと私の憧れです。光の加減で変わるニュアンスとか、ぼんやりと柔らかいトーンとか、たまらない。今回の作品も上品で素敵でした。ありがとう東博……ていうか14代目、もしかしてこの展覧会の出品者の中でかなりの若手なのでは。
名家といえば、樂吉左衛門は先代(15代目)の作品が出ていました。襲名したばかりだからかも。出品作品は「焼貫黒樂茶碗」、これも良かったなぁ。銘が格好いいんだよな。今度京都に行ったときには美術館にお邪魔しよう。

展示作品は茶碗より花器のほうが充実していて、特に西由三の「鋳朧銀花挿」はストイックな美しさに惚れ惚れしました。観てた時は石かと思っていたけど、金工だったんですね。朧銀(ろうぎん)という言葉を初めて知った。金工はノーチェックだったけど、これからは気にしていこう。好みの作品がいろいろあったので。

漆工では並木恒延の「月出ずる」が非常に印象的でした。スーパームーンを描いた作品で、魔性っぽさがとても好きです。あと村田好謙の「風と光と水と」もいろいろと想像を掻き立てるファンタジックな作品だった。どうも私は凹凸のある作品が好きらしいです。動きに惹かれるのかな。
そして竹細工の本間秀昭の「流紋―2018」が繊細で見事でした。どうなってんのと思って、思わずまじまじと見てしまった。一分の隙も無い感じ。竹っていいですよね。なんか清廉な感じがする。

ほかにもたくさんの作品が展示されていますが、とりあえずこの辺で。「紡ぐプロジェクト」というホームページにて出品作品の写真と作者コメントが楽しめるので、気になる方はぜひご覧ください。でも実物の圧倒的オーラは格別ですよ。

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東博での展示は2020/11/15まで。
国には、こういう現役作家の作品展を、特に若手に対する後ろ盾としてどんどんやってほしいなと思います。