好物日記

本を読んだり美術館に行ったりする人の日記

「佐倉マンガ×アート ギャラリー」に行ってきました

mangart.jp

なんだかんだバタバタしているうちにもう一か月も前の話になってしまいましたが、去る2019年11月23日、千葉県佐倉にある旧家「旧堀田邸」で開催された「佐倉マンガ×アートギャラリー」というイベントに行ってきました。海外のマンガやイラストレーターを中心とした展示即売会と並行して、ライブドローイングや翻訳家のトークショーなどのプログラムが開催されていました。海外漫画というテーマって珍しいなと思ったのではるばる出かけたのですが、おかげで楽しい休日となりました。

会場となった「旧堀田邸」は佐倉藩主の堀田正倫の邸宅で、国の重要文化財。イベント自体は無料なのですが、旧堀田邸の入館料(大人320円)が必要になります。しかし当日は、普段は公開されていないゾーンも見学できるように計らっていただいており、古い家好きの私としては、屋敷の見学もとても楽しかったです。土壁の色の具合もシックで良かったのですが、普段非公開の書斎棟の、天井に印度更紗が張られていたのが珍しくて見入っていました。
2階にも上ることができて、ぼーっと窓の外を眺めたりして。畳は良いなぁ。
ちなみに当日は結構な雨だったのですが、おかげで書斎棟への渡り廊下の脇に植えられた熊笹に雨がぼつぼつ降る音が聞けて、そのリズミカルな音に和んでじっと聞き入ってしまった。渡り廊下に意味もなく佇んでいた不審人物は私です…

さて肝心のイベントですが、私が参加したプログラムは、13時からの漫画翻訳家トークショー(スタンザーニ・ピーニ詩文奈さん×原正人さん)と、15時からの原正人さんによる海外マンガ入門です。漫画翻訳家のトークショーなんて、めったにお目にかからないので、これはぜひ聞きにいかねばと思ってはるばる出かけた次第。

正直私は普段、日本の漫画すらほとんど読んでいない人です。姉が漫画好きだったので昔はそれなりに読みましたが、最近は追いかけている特定の漫画のみを読むような感じ。海外漫画については小学校の時の図書室にタンタンシリーズがあって、多分それが日本漫画ではない海外漫画との初めての出会いでした。やたら大きいし「りぼん」に出てくるような可愛い女の子も格好いい男の子もいないし、当時の私はあまり熱心に読まなかったけど、こういうものもあるんだな、という認識はしていました。そして大人になってトランスフォーマーシリーズにハマった頃に英語版のアメコミを初めて買い、総カラーでペラペラした雑誌みたいな形態に戸惑ったのは割と最近の話です。なのでお二人のことも実は全く存じ上げませんでした。
ただ日本の漫画の文法と海外の漫画(というか、コミック)の文法に差異があることは面白いなと思っていて、そのあたりって翻訳するときどうなんだろう?というのが気になっていました。

トークショーでは、お二人がどういう作品を訳してきたか、どういう経緯で漫画の翻訳をするようになったかという話などのエピソードが聞けて、とても面白かったです。お二人とも話が上手い。私が気になっていた文法の違いについては、日本の漫画がかなり浸透しているので、「どういう意味だか全然わかんない!」ということは無い様子。オノマトペとかよりも、作品のテーマとかイラストのタッチとかのほうが差異があるのかもしれないなぁ。とはいうものの、たとえばアメコミと日本の漫画は毛色の違うものなんだろうなとは思う。どっちがいいとかじゃなくて、それらがたどってきた歴史や文化の違いですよね。印象派と浮世絵みたいな感じなのかな?違うけどわかりあえる、互いに影響を与え合う、みたいな。

そして原正人さんの海外マンガ入門もとても楽しかったです。原さんが話すのをみんなで聞くのではなく、持参された翻訳漫画(原さんが手がけていないものも多数)を自由に手に取って見ながら翻訳漫画事情について話をするというゆったりした会で、その距離感が良い。海外マンガ業界のこととか、日本漫画が与えた影響とか、海外漫画の内容に社会的なテーマを扱ったものが多いことなどの話が面白かったです。どうやら移民問題とかアイデンティティの問題が、恋愛とかに特に絡ませずに、生のままぼん!とテーマとして差し出されている様子。日本でもなくはないのだろうけど、少ないよな。
持参いただいた海外発の翻訳漫画や原書をいくかパラパラ観させてもらったのですが、大人のための絵本の進化版というか、嗜好品感が強くてとても素敵だった。まさにアートブックって感じ。サイズも大きいし、紙質も凝っている。最近は日本でも装丁に凝った漫画が増えているように感じてはいますが、メインではないでしょう。どっちがいいとかではないけど、ここまで違うと面白いです。お互いの漫画がこれまでたどってきた歴史の違いを感じました。誰か論文書いていそうだ。読みたい。

言語の勉強の一環として海外の漫画を読んでみるのも面白いけど、普通に翻訳されたのを読むのも楽しそうです。ただ問題は、お値段が張るのと物理的サイズが大きいので本棚を選ぶこと…
しかし知らない世界を覗き見ることができて、とても楽しかったです。来年以降もあるようなので、楽しみにしていよう。