好物日記

本を読んだり美術館に行ったりする人の日記

東京藝術大学大学美術館「円山応挙から近代京都画壇へ」展(前期)に行ってきました

okyokindai2019.exhibit.jp

日本画が好きです。
鳥や動物や花や月などを描いたものが特に好きなのですが、円山応挙といえば私にとっては「虎図」です。東京都国立博物館でお正月にその年の干支にちなんだ作品を展示するのですが、寅年には必ず応挙の「虎図」が展示されて、それが猫みたいにかわいいんですよ。それで応挙の名前は覚えていて、この展覧会も気になっていました。お盆で暇もあるし、公式HPに載っている孔雀も格好いいし観に行こうかな、と軽い気持ちで行ったところ、ものすごく充実した展覧会で大満足でした。

江戸時代の日本画は、琳派や浮世絵については結構いろんなところで特集組まれているのですが、円山派・四条派という括りでの展示はちょっと珍しいように思います。ありがたい企画だ。応挙にたくさんの弟子がいたことを初めて知りました。
あと日本画の凄さは余白と構図にあると思っているのですが、そこに写実性という要素を加えたのが円山応挙なのかな、というのも今回の展示で初めて意識しました。確かにあの写生力は、近代日本画に通じるものがありそう。

とはいえ当時の状況を考えると、円山応挙がいなければ日本画はずっと写実性を手に入れられなかったのかというと、そういうわけでもないだろうなとも思います。円山応挙は1733年生まれで、植物のスケッチや由来・効用などをまとめた『大和本草』を貝原益軒が刊行したのが1709年らしいので、彼が生きた時代は社会全体が写実主義に流れていく気運に傾いていたはず。ちなみに平賀源内が1728年生まれとほぼ同世代だったらしいことを知ると、なんとなく当時の世の中のイメージがつきやすくなりますね。
応挙がいなくても誰かがやっただろうな、とは思えども、時代と才能が一致して見事に花開いたことは、応挙にとっても当時の人々にとっても後世のわれわれにとっても幸せなことだと思います。応挙に弟子がめちゃくちゃたくさんいたのも時代の要請だったのだろうなとは思いますが、それにしても門下を率いるというのは誰にでもできるものではない。自分だけが努力すればいいなら簡単なことだけど、弟子を育てるというのは絵とは違う才能も必要だし、応挙はきっとバランス感覚のいい人だったんだろうなあ。

応挙が描いた「写生図巻」も博物学への流れが感じられて非常に面白かったのですが、私としては弟子たちの仕事ぶりを讃えたい。というのも、今回の展示で一番好きだったのが、亀岡規礼の「採蓮図」だからです。
「採蓮図」は応挙とその弟子たちの襖絵を多数所有する兵庫県大乗寺にある襖絵のひとつで、女性たちが川に船を浮かべて笑いさざめくというふんわりとした筆致の絵なのですが、四枚の襖に描かれたその一番左の襖の上部に描かれた建物がポイントです。そうそこ、窓からちらりと見える朱色の机と、その上に置かれた青磁の花瓶!花瓶に挿された一輪の花!そこです!
私はこの花瓶と机をここに描くという、亀岡規礼のセンスに撃ち抜かれたのでした。ぞっとするくらい、これ一つで全体が引き締まるんですよ。あの机と花瓶の色のチョイス。女性たちはみんな出払っていて、建物の中に花だけが飾られているという情景の描き方がすごい。あの花瓶の青磁の色の美しさがすごい。なにあれ…
亀岡規礼の絵は「採蓮図」一つしかなかったのですが、彼の名前は私の胸に深く刻まれました。どこかでまたお目にかかれたら嬉しいなぁ。

他にも長沢芹雪の「薔薇蝶狗子図」は猫派の私も頬が緩むくらいにかわいらしかったし、円山派の流れを汲むという岸竹堂の「大津唐崎図」もしばらくぼーっと眺めていたいくらいの絶景でした。岸竹堂の作品をはじめ、今回の展示では株式会社千總の所持品が多く、さすが老舗、いいもの持ってらっしゃいますのね、という感じでした。東京に持ってきてくれてありがとうございます。

ちなみに本展覧会は京都にも巡回する模様。東京での会場は東京藝大の美術館でしたが、今回初めて入りました。きれいな建物でした。東京都美術館っぽい作りで、展示スぺースが複数階に分かれていましたが、どのフロアも広くてゆったりしています。
なお同じ敷地内に「藝大アートプラザ」というショップがあって、学生さんや教員の作品や書籍が買えるスポットがあるので、帰りにはそこに寄るのもオススメです。

参考)
geidai art plaza | 藝大アートプラザ

展覧会自体もすごく満足だったのですが、作品リストを見ると前期と後期でかなり展示作品が変わるようなので、後期にもう一度行こうかなとも思っています。リピーター割引券も頂いたし。「採連図」ももう一度観たいし。
大きな作品も多くて、数もあって、見ごたえのある展覧会でした。とてもよかったです。