すでに会期が終ってしまった展覧会の感想となってしまい恐縮ですが、先月半ばに久々に博物館に行ってきたので、未来の自分のために記事にのこしておくことにします。友人が誘ってくれて、半年以上ぶりに展覧会に行きました。やっぱり美術館・博物館は良いなぁ。
前に東博に行ったのは2020年10月の「工藝2020」のときで、このときからすでに東博は事前予約制となっていました。しかしこのときは今回ほどチケット争奪戦がシビアではなかったので、当日ふらりと予約して来場することができました。
今回はみんな大好き鳥獣戯画を全巻一気に観られるチャンスであること、会期中に緊急事態宣言が発令されて休館になったことなどの影響から、会期を延長して再開した早々にチケットが見事に売り切れになるという事態となっていました……。前日キャンセルを狙ってはいたものの私はほぼほぼ諦めていましたが、同行の友人がPC前に張り込んでチケットをもぎ取ってくれました。ありがとう! ありがとう!
鳥獣戯画の「すべて」と銘打っている理由の一つは、前述の通り全巻が一堂に会した貴重な機会だからです。兎と蛙が相撲をとっている絵で有名な甲巻をはじめ、鳥獣戯画は甲乙丙丁の四巻構成となっています。所蔵している京都・高山寺でも時期によって入れ替えて展示しているため、全部を一気に観る機会というのはなかなか無いらしい。とはいえ私は鳥獣戯画のオリジナルを観ること自体が初めてだったので、「おおお、全体はこんな風になっているのか!」というところから、かなり楽しめました。すごく面白かった。
鳥獣戯画で最も有名な甲巻は、兎、蛙、猿などが人間のような振る舞いをしている巻。兎と蛙の相撲や、蛙の本尊を拝む猿などの場面が有名です。川遊びの場面で猿の背中を流す兎も和むけど、私が一番好きなのは神楽を踊る蛙だったりする。
甲巻以外は今回初めて内容を知るものばかりでしたが、乙巻の動物絵巻が非常に好みでした。こういう百科事典的な絵巻物が大好物です。麒麟や獅子などの空想上の動物や、犬や鶏などの実在する動物などが描かれていました。象や虎など日本にいない動物も入っているけど、しかし日本画の象ってみんなタレ目で目尻に烏の足跡がありますよね。若冲といい。最初に描いたのは誰なんだ…
丙巻は前半部分が人間の風俗画、後半部分が動物を役者に立てた戯画となっています。祭りで切り出した大木を運ぶ動物たちの絵がとても好きでした。あと人間たち(鳥獣戯画に人間が出てくること自体、今回初めて知った)がにらめっこ(目比べ)などの遊びをしているのがユーモラスで面白かったです。二人の人物が輪にした縄を首にかけて引き合う「首引き」とかいう危ない遊びをしていたのも印象的なのですが、輪にした紐を耳に引っ掛けて引っ張り合う「耳引き」がものすごく印象的でした。なにこの危ない遊び! 小学校でやってたら絶対怒られるやつだ。でも楽しそう……
最後の丁巻は人間しか出てこない巻で、祈禱だの流鏑馬だの、甲巻で動物たちがやっていた風俗の元ネタが描かれていました。水墨画もそうですが、線の太さや濃淡で躍動感を表す技量が凄かった。デフォルメしつつ勘所を押さえてる感じが好きです。コミカルだ。
今回の展示で面白かったのは、鳥獣戯画4巻のほかに、写し(模本)や断簡があわせて公開されていたことです。鳥獣戯画の「すべて」と銘打っているもう一つの理由です。
断簡というのはもともと巻の一部だったと思われるけれど散逸してしまった絵の切れ端のことで、掛け軸などに仕立てられているものです。全部繋げた場合の復元予想図も面白かったなぁ。2巻仕立てでもっと長かったはずだったらしい。
模本はいわゆる写本で、狩野探幽の模本がミニミニしくてかわいかったです。持ち出し禁止だったろうから、しばらく泊まり込みとかで模写したのだろうか。当時は展覧会なんてないし、実物を目の前にしたときの探幽はどんな気持ちだっただろうか。これがあの……! とか感動したんじゃなかろうか。私は絵を描かない人間だけど、絵を描く人からしたら偉大なる先人の巻物は聖典のように思えたかもしれないよなぁ。
他にも鳥獣戯画を持っている高山寺を再興した明恵ゆかりの品々や高山寺が属する華厳宗ゆかりの絵巻物などが展示されていました。そのなかに明恵の坐像があったのですが、X線で調査したところ、中に巻物が隠されていることが分ったらしく、その報告のゾーンがとても面白かったです。今はまだ「巻物がある」しかわからないけど、いずれ像を割らなくても、中の巻物に何が書かれているか読めたりするだろうか。御守りの中のお札を見てはいけないように、像に隠された巻物も見ちゃいけないのかな。わからないからご利益があるのかも。でも隠されたものは暴きたい欲もありますよね……天皇陵とかね。そういう意味で墓泥棒とかピラミッド盗掘というのは一種のロマンとして理解できなくもない。下世話と紙一重ではあるのですが。
話がそれてしまった。いやしかし、チケット争奪戦は厳しかったけど、入場制限のおかげでじっくりゆっくり観られるし、とても良い展示でした。甲巻の展示は動く歩道で強制的に立ち止り禁止でしたが、速度もちょうど良く何の不満もなかったです。
鳥獣戯画はまた機会があったら観たいなぁ。できれば高山寺で観たいな。あと、今回はもう鳥獣戯画でお腹いっぱいでしたが、東博の常設展(本館と東洋館の展示)もあらためてゆっくり観に行きたいです。