好物日記

本を読んだり美術館に行ったりする人の日記

神奈川県立近代美術館葉山館「柚木沙弥郎の「鳥獣戯画」」「みえるもののむこう」展に行ってきました

葉山にある神奈川県立近代美術館に行ってきました。
京浜急行の「葉山女子旅きっぷ」というのを使ったところ、京急線往復電車代とバス乗り放題、指定飲食店でのランチと指定店舗でのおみやげがセットになっていてお得でした。京急線の券売機で買えるのですが、何が良いってバス乗り放題なところです。美術館へも、海岸沿いのいい感じのお店や大きな神社へも、バスがないと歩いてはちょっと厳しい場所にあるので。
昼に新逗子に着いてバスに乗ってランチを食べて美術館に着いたのが15時前くらい。17時閉館までじっくり見ましたが、もう少し早くスタートしておくべきでした…

美術館には常設展はなく、展示期間中だった企画展は2つ。せっかくなので両方観ることに。

www.moma.pref.kanagawa.jp

1つ目はもともとこれを目当てに行った、柚木沙弥郎の展示です。教えてもらうまで知らなかったのですが、民藝派の染色家とのこと。布を染め
たり絵本の挿絵を描いたりされていて、1922年生まれでまだご存命で、今回の展示も新作である「鳥獣戯画」がメインというのが、もう、頼もしい…
樹皮を染めた「セカルへのオマージュ」や、紬を染めた「いのちの樹」の力強さに民藝っぽさを感じました。陽のエネルギーがつまってる感じがして好きです。
鳥獣戯画は教科書にも載っている絵巻物が元ネタですが、今回の新作である「鳥獣戯画」は絵巻物をもとに村山亜土が描いた脚本を、柚木沙弥郎が大きなパネルに絵巻物として描きなおしたものです。リテイクみたいな感じか?ストーリーを追いながら観ていくのも楽しい。絵本を読んでいるような気になります。
絵本の原画も展示されていて、『トコとグーグーとキキ』のトコはどこかで観たことがあるような気がしました。全体的に温かみのある絵で、パターンの使い方とか色のメリハリとかが好みでした。いいなぁ。


www.moma.pref.kanagawa.jp

2つ目は「みえるもののむこう」、まるでノーチェックで観た展示です。5人の若い現代作家さんが、作家ごとに区切られたゾーンに作品を展示する構成。写真家もいれば振付家もおり、映像を流す人や絵を描く人、音楽を流す人など、個性豊かでおもしろい。現代アートってよくわからなくて苦手なものも多いのですが、日常に沿わせる形の作品がメインだったためか、すごく面白かったです。あ、こういうことしている人がいるんだな、というのがわかって、なんだか心強い。

時間が許せばもっと観たかったなぁというのが、三嶽伊紗さんの「クロイ鳥・シロイ夜」と題された映像作品です。2019 _01と2019_02の2つがあって、いずれも時間は15分弱。数分しか見られなかったのですが、めちゃくちゃよかったです。定点カメラで複数の映像を重ねあわせているのですが、1月の方は水面をゆったりと泳ぐ鳥と月の映像、2月は松林に降り積もる雪と大空を飛ぶ鳥のオーバーラップ。音はないのがまた良い。砂浜に打ち寄せる波をずっと見ていられるタイプの人はたぶん飽きずに観ていられると思います。本当に、もっと観ていたかった…

もうひとつ面白かったのが一之瀬ちひろさんの写真です。日常の生活に日本国憲法を織り交ぜるという試みをされているのですが、家の中や庭などを中心とした日常風景の写真の群れのなかに、政治の象徴のようなモチーフを撮った写真を挿し込んだ私製の写真集を展示されていたのです。そういうやり方をするのか!というのがとても興味深かった。写真集を観ていると、政治的なモチーフの写真を違和感として感じるんですよね。異質なもの、という印象。自分は政治を日常と区別して認識しているんだなあというのがよくわかりました。政治も家庭も同じ次元の話であるのが理想だとは思うのですが、やっぱり区別しているんですね。自分は同じ次元の話だと思っているけど他の人は区別しているものとかもあるんだろうなぁ。

スケジュールが合わず、酒井幸菜さんのパフォーマンスが見られなくて残念でした。おもしろそうなことをされているのにな。


私は近代美術の美術館って前衛的過ぎてついていけませんという雰囲気をたまに感じることがあって苦手なのですが、ここはこじんまりとしていながらも充実した展示で、スタッフの方も感じよく、すごく良い施設だなと思いました。エントランス外にあるイサム・ノグチこけしがめっちゃかわいかった。
いずれの展示も2019/9/8まで。展示が変わっても、機会を見つけてまた行きたいです。