好物日記

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「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」を観ました

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ハリウッド版ゴジラ観てきました。結論から言うと、めちゃくちゃ好みの映画でした。ありがとう、ドハティ監督!

私はもともと怪獣映画ってそんなに興味なかったんですが(ロボットのほうが好きだった)、『シン・ゴジラ』がすごく気に入って、それをきっかけにDVDで1954年版の初代ゴジラを観ました。そして怪獣映画の中でも、ゴジラは私にとって別格になったのです。日本が誇るキャラクターだと思う。強くて格好いいだけじゃなくて、悲哀を背負っているのがいいんですよね…
とはいうもののそこまで積極的に入れ込んでいたわけではなくて、2014年のハリウッドゴジラもスルーしていました。なんとなく私の好きなゴジラじゃない気がしたからです。そして今回のゴジラもスルーするつもりだったのですが、Twitterで流れてきたドハティ監督のインタビュー(下記リンク)が面白すぎたので、観に行くことにしたのです。

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何にだって、どんな映画にだって、ゴジラを加えればより良くなると僕は思っている。想像してごらんよ、「スター・ウォーズ」にゴジラを足したら、やばいだろ? 「七人の侍」だってさらに良くなる。54年版の「ゴジラ」にゴジラを足したら、ゴジラがダブルで登場してさらにやばい。(上記インタビュー記事のドハティ監督の言葉より)

こういう人が撮る映画が面白くないわけがないでしょう!いわば壮大な二次創作のようなもので、ハリウッドは金も環境もあるから本気でやったら、そりゃあやばいに決まっている。ありがとう、めっちゃ楽しかった。
SFXはやっぱりハリウッドがうまいんですよね。観に行くのが遅くなってしまったので小さめのスクリーンになってしまったけど、それでも映画館で観られてよかった。海中都市の映像も美しかったし、ゴジラだけでなくキングギドラモスラも素晴らしかったです。翼のある怪獣ってダイナミックで好きです。彼らが出てくる作品は見たことがないから、観ないと…
役者さんも良かったです。リン博士の五分袖がめっちゃキュートだったし、大佐のYes, Ma'am!と言われ慣れてる貫禄に惚れ惚れしました。ちょいちょい挟まれるサムの顔芸もいい味だしてましたね。

しかしゴジラのテーマは何度聞いてもいい曲ですね。ゴジラのテーマと、ドラクエの序曲と、宇宙戦艦ヤマトのマーチが昭和日本の三大テーマソングだ。

以下、長くなってしまったので折りたたみます。映画の内容にも触れてますのでご注意ください。


この映画を観ていてすごく気になったことが2つあります。

1つは、ゴジラが地球生まれであるのに対して、キングギドラが地球外生命体、いわばエイリアンだったこと。
本作ではゴジラキングギドラが王の座を巡って殴り合いの大喧嘩を始めるわけですが、ゴジラとしては「地球を守るため」というような意識ではなくて「ここは俺のナワバリだ!」という本能的な反応のようでした。とはいえ人間としては漁夫の利を得たいところで、ゴジラキングギドラが戦って共倒れになれば一番いい。しかしキングギドラが勝って王になったなら、どうしても「侵略された」という意識が付きまとうことになるんですよね。だからゴジラが勝つ必要があった。
観たことないのでアレなのですが、人類の味方をしてくれるウルトラマンは、確か元々宇宙人なんですよね。しかしゴジラは地球生まれ。そうなると何がいいかって、「助けてウルトラマン!」と叫ぶよりも、守られる側の心理的負担が減るのです。ウルトラマンなどの地球外生命体に頼るのは安保条約を締結しているようなもので、いつ地球外パワーの傘を失うかわからないという不確実性が付きまとう。彼らがいるうちはいいけど、もしいなくなったとしたら、宇宙から敵が攻めてきたときにどうやって自分の身を守るんだい?ウルトラマンが守ってくれることをあてにして、何の備えもしなくていいのかい?…とかいうと政治の話みたいになりますけど、まぁそういうリスクを常に抱えることになる。
それに比べてゴジラは地球生まれだから、地球に降りかかる災厄は彼が地球にいるかぎり、本能的に払ってくれるはず。繰り返しますが、別にゴジラは人間を守って戦っているわけではなく、彼自身が生き延びるために身に降りかかる火の粉を払っているだけなんだけど、結果的に人間も得をする仕様になっています。地球を住処にしている以上、地球がなくなったら困るはずですし。なので「お願いする」というプロセスを経なくていいのも罪悪感を薄めます。ゴジラが負傷しても、それはべつに人間が「やらせた」わけではないし、という言い訳も立つ。大国とのバランスを計算しながら生き残りを図る小国のようですが、桁外れの生命力をもつ怪獣を前にした人類の立場としては、そんなものでしょう。それに「同じ星の仲間」と思えば応援にも熱が入るというものです。
とはいうものの、なにより私が印象深かったのが、キングギドラの首が生え変わったときに「生物の理屈に反してる」「そりゃそうよ、だって地球の生命体じゃないから」みたいなやり取りがあったときの「キングギドラは侵略者であり偽王だ!!」という結論になったあの空気です。あ、そういう風になるんだ?なんでキングギドラが地球に来たのか不明ですが(続編に期待!)、彼もナワバリ確保したいだけでしょう。しかしキングギドラが王になると、人間の住処(ナワバリ)はかなり奪われてしまいそう。だからキングギドラを倒す必要がある。それだけでいいはずなのに、共生などできる相手ではないと判断するに至った根拠が「だってあいつは地球生まれじゃないから」であるように見えて心配になりました。それでいいのかハリウッド。

ちなみに同じ地球生まれのモスラのヒロイン枠っぷりがすごかったですね。古くからの旧友であるゴジラを庇って威嚇するの可愛かったし、ラドンにやられそうになった時に鋭いかぎ爪で相手の体に穴開けるとこなんか、棘のある美しい薔薇という貫禄で、セクシーでたまらなかったです。高嶺の花って感じだ。やっぱモスラ観ないと。


さて話がそれましたが、気になったことのもう1つが、ゴジラが「動物」扱いされていることです。
だいたい映画の初っ端でエマが幼虫のモスラと対峙したときから、なんだかムツゴロウさんを見ているようでした。この映画における怪獣たちはモンスターですが、決して神の眷属などではなく、バイタルを補足され追跡される野生動物なのです。それは怪獣たちが人類にもたらす災厄が、決して天災とはみなされないことを意味しています。

たとえばエイリアンが襲撃してきて街が壊滅したら、エイリアンを憎めばいい。エイリアンを倒せば仇を取った気にもなる。ゴジラが街を破壊したことで息子を失ったから、マークはゴジラを憎んだ。エマは息子を奪った怪獣を手懐けることで仇を取ろうとしたように見える。しかし自然災害は?地震津波愛する人を亡くしたとき、人は何を憎むのか?憎む対象がないことがつらいこともある。神を憎めばいいのか?
シン・ゴジラ』の評価が高かったのは東日本大震災へのレクイエムを兼ねていたからだと思いますが、あのとき蒲田から上陸したゴジラは恨みを買う存在ではなかったように思います。『シン・ゴジラ』のゴジラ東日本大震災が日本を襲った「災厄」そのものを実体化したもので、映画の世界でもゴジラが災厄の原因というより、ゴジラ自身を含めた一連の事象が災厄であるような見せ方になっていたように思います。いやまぁ実際ゴジラのせいではあるんですけど、いわばダイダラボッチが歩いているようなもので、やっぱり感覚的に、八百万の神に連なるものなんだよな。倒すものではない、鎮めるもの。天災の一種。
しかし今回のゴジラはモンスターだ。芹沢博士が「彼らはモンスターではない、アニマルだ」みたいなこと言ってましたけど、つまるところキリスト教圏では人類に仇なすものはどうやっても神にはなれないのでしょう。ドラゴンは騎士に倒される存在。人に害悪を及ぼす動物は駆除対象となる。
妖怪や都市伝説にはたいてい「回避方法」が用意されていて、それをクリアすればお互いにトラブルなくすれ違うことができるようになっているものです。そうやって共生してきた。しかし騎士に倒されるドラゴンや古代神話の怪物に用意されているのは「回避方法」ではなく「弱点」で、そこを突けば倒せる、倒せてしまえる。これは戦争の歴史とオーバーラップしているからでしょう。「弱点」を手にした英雄はモンスターとすれ違うのではなく、モンスターを倒してその陣地を自分の領地とする。西洋諸国はそうやって長い間戦争を繰り返していた。これは良い悪いではなくて、そういう文化だったということ。
とはいえ今回の映画では、言語の外にある動物学的なルールで交渉を重ねて立ち去らせるという手法も取られていました。新しい時代を感じる。

いろいろ考えるとハリウッドのゴジラは特に何かを委託されているわけではないだけなのか、とも思います。『54年版ゴジラ』では原爆の苦しみを背負っていた。『シン・ゴジラ』では東日本大震災の行き場のない悲しみを背負っていた。日本のゴジラの鳴き声は悲哀を帯びていて、映画の中ではない現実世界の、つらい記憶の代弁者だった。しかし今回のハリウッドのゴジラはそういう個別の事象を背負っていない、一番自由なゴジラなのかも。
人類の悲しみを背負った偶像ではなく、地球に生息する一個の動物として描かれることの是非は好みの問題に帰するので何とも言えないところです。ただ、ハリウッドの描くゴジラが解釈ちがいだとか、そういうのはちょっと違うのだろう。ただ、好みの問題だ。

しかしやっぱり娯楽映画として純粋に面白い作品に仕上がっているのはさすが。火山の上に立つキングギドラの美しさと、雲を蹴散らして飛んでくるモスラの美しさ。自分のおうちで休んでいるゴジラの目の動き。とにかく映像が美しかったなぁ。技術の進歩に目を見張ります。じつにいい時代だ。オリジナルシリーズもちゃんと観よう。