好物日記

本を読んだり美術館に行ったりする人の日記

下関市立美術館 所蔵品展「地域ゆかりの美術」に行ってきました

www.city.shimonoseki.yamaguchi.jp

下関に行く機会があったので、美術館に行ってきました。地域の公立美術館はご当地ものをいろいろ持っていて面白いので、なるべく寄るようにしています。

下関市立美術館は下関駅からバスで20分ほどの、地域密着型美術館でした。観光客が訪れる唐戸市場や壇ノ浦からもかなり離れた、地元の人が車で来る感じのこじんまりとした美術館。企画展は2階で、1階は市民ギャラリーとなっていました。吹き抜けホールが地域の方で賑わっていたのが印象的。良い美術館だなぁ。

所蔵品展はテーマを決めて定期的に展示替えをしながら開催しているようです。今回のメインは赤間硯、狩野芳崖などの日本画、堀晃(ほり ひかる)の追悼展示でした。

赤間硯についてはまったく知りませんでしたが、赤間石から造る、高名な硯であるとのこと。堀尾親子の作品が展示されていましたが、全体的にシャープで硬派な印象でした。武家好みっぽい。お父さんの堀尾卓司は1910年生まれ、1986年没の昭和に活躍した職人さん。息子さんの堀尾信夫は1943年生まれで、お父さんに比べるとよりモダンでシンプルな作品が多い印象です。いずれにせよ現代において硯って日用品ではないですし、美術品として残るほかないのかなぁ。装飾過多な作品ではなかったのですが、墨がたまる部分が割と平坦なものもあって、実際使う時どうするんだろう、零れないんだろうか、とか気になってしまった。しかしプロは小学生が墨汁を注ぐみたいに、一度に大量の墨を溜めたりはしないのかな?赤間石は硯に適した材質とのことだったけど、使ってみたときの使用感の違いが気になった。書家としては「やっぱり赤間硯がいいな」とかあったんだろうか。しかし歴史をみると参勤交代の贈り物になっていたというので、結構昔から美術品としての硯として有名なのかもしれない。お武家さんの床の間にでも飾られていたんだろうか。

日本画は下関ゆかりの画家の作品展でしたが、松林桂月の「春宵花影」がめちゃくちゃ好みでした。満月をバックにした桜の花を描いているのですが、結界の向こう側にある怪しい花って感じが実に幻想的で、たまらなかったです。この世のものではない感が桜の神髄だと思いますが、吸い込まれる…。(調べたら東京国立近代美術館で同じ構図の「春宵花影図」が公開されているようなので、これは行かなくては!)
あと大庭学僊の「花鳥図」も、屏風に鳥たちがたくさん描かれていて癒されました。日本画の花鳥図がすごく好きです。

堀晃の追悼展示も静かな迫力のある絵が多くて印象的でした。月明りの下でサイが波間に佇む「静かなる刻」が美しかったです。海の描写が多かったのは、下関を拠点としていたことが影響していそうですね。

駅からちょっと遠いですが、良いものを観ました。