好物日記

本を読んだり美術館に行ったりする人の日記

早稲田大学 會津八一記念博物館「ニューヨークに学んだ画家たち」に行ってきました

www.waseda.jp

早稲田に行く機会があったので、ついでに寄りました。大学は研究に必要という名目で面白いものをいろいろ持っているのが常ですが、早稲田大学がこんなに絵を所蔵しているとは知りませんでした。めちゃくちゃ面白かった。

副題に「木村利三郎を中心に」とあるように、展示作品の半分以上は木村利三郎の絵です。初めて観ましたが、近未来感がかなり好みでした。
エッチングの精密さもかなりツボだったのですが、スクリーンプリントの「City」シリーズが今回のメイン。ちょうど今、空想の都市を描いたギョルゲ・ササルマンの『方形の円』を読んでいるし、最近なんだか都市づいているなぁという印象です。もともと都市というモチーフが好きなのもありますが。

「City」シリーズは街を構成するパーツがかなり抽象化されていて、具体的な都市の風景として描かれているわけではありません。都市と題されれば都市に見えなくもないかな、というレベルの抽象化具合の絵が多かったです。なので提示された絵がどんな都市に見えるかは、鑑賞者に依存します。
幾何学模様がよく使われているのですが、やはり都市といえばビルという連想もあり、イメージとしては丸より四角ですね。そう考えるとやっぱりあの「City」シリーズは、村(village)ではありえないなぁ。
ビルがにょきにょき生えているのを横から描いた(絵の上下がそのまま天地になる)ように見える絵もあれば、鳥観図のように上空から都市を描いたように見える絵もあって、そうかと思えばそのどちらなのかわからない絵もあったり。彼の描くCityは基本的にニューヨークを土台にしていると思うのですが、時折宇宙に飛び出したり集積回路を模したりしている絵もあって、近未来な印象になるのがアメリカっぽい。

木村利三郎以外では猪熊弦一郎坂上怜湖、白井昭子、富岡惣一郎、荒川修作の作品が展示されていました。
中でも荒川修作の作品がかなり衝撃的ですごく印象に残っています。「実際には:盲目の意志」という9つの作品シリーズが展示されていたのですが、英文や矢印などの図形を多用したコラージュのような作品で、なんとなく発明家のノートをのぞき見しているような気持になりました。なんなんでしょう、あの意味ありげな絵画空間は…。
よくわからないなりに作者の意識と思想を感じるのですが、それってどんな意識なの?と聞かれてもよくわからない。よくわからないけどこの図形はここにある必要があるんだろうな、という強い意志を感じる。なんとしても「養老天命反転地」には一度行かねばならぬと思いました。


會津八一記念博物館は初めて入りましたが、こじんまりしているわりには観るものがしっかりあって楽しめました。一時間半くらいいたような気がする。
この企画展のほかに「富岡コレクション 書の名品」という展示もやっていて、字のお手本である手鑑や勝海舟への手紙をまとめた書画帖などが展示されていました。書の展示は2019/6/30で終わってしまうのですが、人によって文字が違うのが面白かったです。博物館や資料館で手書きの文字があるとついつい見てしまうのですが、ほんと、性格出ますよね。写経の字体はどこで観てもピシッとしてて好みです。背筋が伸びる。
會津八一コレクション展示は東洋の古美術(学習史料という目的だったようです)が公開されていて、拓本や俑、鏡や仏像などがありました。でも一番よかったのは會津八一の筆で書かれた短歌です。「あめつちにわれひとりゐてたつごときこのさびしさをきみはほほゑむ」って、いい歌だなぁ。「はつなつの~」の短歌に添えられた仏さんの絵も、いい意味で力が抜けていて非常にキュートでした。

実に満喫したのですが、なんと入場無料です。大学の資料館は無料のところ多いですが、本当にこんないい展示を無料で観させていただいていいんですか。ありがたやー。
近くに行く用事があればぜひぜひどうぞ。企画展「ニューヨークに学んだ画家たち」は2019/8/4までです。