好物日記

本を読んだり美術館に行ったりする人の日記

遠藤周作『影法師』を読みました

影法師 (新潮文庫)

影法師 (新潮文庫)

本書を含め、我が家にある遠藤周作の本はすべて姉からの寄贈本です。私も嫌いじゃないんですが、どうもずーんと落ち込むので手元には置いていませんでした。しかし姉から大量に仕入れたのでぼつぼつと読み進めています。それにしてもよりによって遠藤周作の重い系の作品ばっかりお持ちで!狐狸庵先生の軽妙なエッセイ本は一冊も見当たらない。あの人らしい。

この本には9編の短編と2編の評伝が収められています。9編の短編はかなり私小説寄りの表題作「影法師」で始まって、渦巻きのようにぐるぐると輪を描きながらじわじわと中心から外円へ向かっていくような構成になっていました。中心にいるのは遠藤周作の母です。
遠藤周作を読むと「日本に土着したキリスト教」の「それっぽさ」をひしひしと感じるのですが、本書もその系列のひとつでした。アーメンと唱えロザリオを手繰っても、なんというか、南無阿弥陀仏の念仏と数珠の音にひどく重なる。唯一神とは言うものの、神仏習合してる感がある。多分、どちらも信仰心の根っこに慈悲があるのだ。つい仏教用語になってしまうけど、おそらくそうなのだ。浄土真宗が変わり衣で現れた印象を受ける。

同じ題材が何度か繰り返し出てくるのですが、書かずにはいられなかったのだろうなぁ。
「なまぬるい春の黄昏」が印象的でした。長い闘病生活から脱し、妻と息子と共に小旅行に出かけられるほどにまで回復した主人公(著者の分身)が入院時の出来事を振り返る話です。退院の見込みがまったくない「おばさん」の回想と、旅行中に出会った、戦争中のことを訥々と語る「おばさん」。どんなに遠く離れた立場に見えても紙一重だよなと思います。退院の見込みがまったくない「おばさん」の振る舞いが、いかにも今この時もどこかの病院にそういう人がいるんだろうな、しかもひとりではなく、この「おばさん」はあらゆる病院に偏在するのだろうなと思うとたまらない。つらい…

なお巻末に収録されているのは原民喜梅崎春生の評伝なのですが、正直どちらも読んだことが無いのでした。特に原民喜の『夏の花』は怖くて読めない…
なので彼ら二人の人となりを知るというよりは、当時の文士たちの交流の仕方に興味を持って読んでいました。三田文学の集まりとか、そういうのがほんとにあったんだなぁ…