かぐやSFコンテストは2000字~4000字の短編小説のコンテストで、第3回のテーマは「未来のスポーツ」でした。
最終候補作品は著者名を伏せられた状態で全文公開され、読者投票による読者賞が決定されます。また審査員によって選ばれる大賞を受賞した作品は、英語と中国語に翻訳されるというのがちょっと珍しい。
かぐやSFコンテストの面白いところは「匿名で応募する」というルールがあること。
応募数は一人一作品まで、匿名で応募していただき、審査員は作品タイトルと本文のみで審査を行います(最終候補の筆者は結果と同時に発表)
あらゆるバイアスを排除して作品と向き合うため、ということで、主催のバゴプラのそういうスタイルを私は非常に好ましく思っています。好きです。
今回の読者投票期間は2023/9/19までだったので、ギリギリながら無事に投票を済ませました。私はモニターで小説が読めないタイプなので印刷できないか頑張ったのですが、どうしても広告が入り込んでしまったので断念して頑張ってスマホで読みました……。テキスト抽出しにくいほうが作品を守れたりするのだろうか。あんまり安易にコピーできてしまうと悪意のある行為が可能になるからか?
何はともあれ無事に投票を終えたものの、今回は特に迷いに迷って投票したので、各候補作について感想を書いておくことにします。
最終結果が楽しみだ! 長くなるので隠しておきます。記載の順序はタイトル順です。
「あの星が見えているか」
視ることを競うeスポーツ発祥の競技「競視」選手が、裸眼で物を視ることの意義に疑問を感じながら選手生命最後の試合に臨む話。
未来、オリンピック、ときたら「それって意味あるの?」になるんだよなぁ。生身で速く走ることに、高く飛ぶことに、意義を見出すのはただのノスタルジーでは? 人類は道具を使って未来を切り開いてきた生物だというのに。
そういう鬱屈を前提として「視力を競う」にしたのがいいなと思いました。読後感が素敵。
「勝ち負けのあるところ」
地球を訪れたエイリアンとプロレスをする女子プロレスラーの話。
私はプロレス全然知らないんですが、あれって勝ち負けがあらかじめ予定されているショービジネスなんですか。コミカルで、でもやり場のない気持ちの描写もあって、オチもついていてよかった。女子プロレスってそういうものなのか。
エイリアンが出てくると私は毎回どんな姿なのか興味津々なのですが、今回のもよかった。四本の腕を交差させて……ってどんなだろう。ジェスチャーは星を越える。
「月面ジャンプ」
あらすじ書いたらネタバレになるんですけど……月面でみんなでジャンプする話。いやよくできてるな……!
かわいい兄妹とののどかな会話の周囲に立ち込めるブラックユーモア、それでも完全には消えない朗らかさが癖になる。にっこり笑って毒を吐く感じ、とても好きです。
「よかったら、足りない分の一センチは、ぼくが余分に飛んでおきますよ」が好きすぎました。
「叫び」
馬の叫び声によって人類が追い詰められていく話。
格好良い! とにかく格好いい! なんだこの疾走感は。発馬機から一斉に飛び出すようにスタートを切り、途中途中でエピソードがズームアップされ、鼻先がゴールに到達したら少しずつ減速していく感じ。これはやばい。アドレナリン出る。走れ!
「城南小学校運動会午後の部「マルチバース借り物競走」」
マルチバースゴーグルを装着し、多元宇宙を渡り歩いて紙に書かれた「お題」を手に入れるお父さんたちの話。
なんといってもタイトルがいい。作品のノリとかどんなスポーツ(スポーツ……?)なのかとか一目瞭然だし、かつキャッチ―である。ちなみに城南小学校って日本全国に複数あるんですね。富士見みたいな地名なのか。すでにマルチバースっぽいじゃないか。
「月はさまよう銀の小石」
ネアンデルタール人であり、野球選手でもあった父の思い出を語る話。
しっとりしていて、重量感があって、問題意識も提起されていて、良くまとまっていた。差別される側が持ち続ける誇りと、それがどんなにキラキラしていても見えない人には見えないという現実も切ない。それでも胸を張って生きよ、見せつけてやれ。
「プシュケーの海」
事故で全身麻痺となったスイマーが身体にインプラントを埋め込んで、イルカの脳と一体化し自在に泳ぐ手段を得る話。
スイマーの名前はツグミ、イルカの名前はメイビス(ウタツグミ)。インプラントを埋め込む提案をする「私」は一体何なのか。ツグミが「センセ」と呼ぶのがなんとなく気になりました。何か元ネタがあるのかな。
全体的に情緒的で美しい文章でした。プシューケーは蝶モチーフだから、荘子のイメージも入ってるかもしれない。意識なんてどっちだっていいよね。
「ベントラ、ボール、ベントラ」
ドッジボールの話、らしい。
最初はなんだかわからなかったけど、読み進めるとドッジボールの話でした。こういうなんだかわからない感じで中盤まで突っ切っちゃうの、結構好きです。
突拍子もないようなルールなのに「物の所有者が変わるということは、その物がボールである可能性を生んだ。」などと語る冷静な文章がツボでした。私なら何をボールにしようか。
「マジック・ボール」
アメリカの女子寄宿学校でベースボールをする話。
女性がベースボールをすること、男装して戦争に出ること、女性に教育は必要ないと考えること、などを詰め込んだ作品だった。懐かしさがある。60年かかって漕ぎつけたものの裏には、100年経っても相変わらずなものが見え隠れする。しかし「未来のスポーツ」というテーマでこの内容の作品を送るとはなかなか。いいですね。
「歴史的な日」
体育を室内で行う時代、小学校にスポーツ施設を作る仕事を請負った青年が落成式に出席する話。
おおSF、というような正統派な設定で真正面から来たなぁという感じ。「がんばれ!」と声援を送る声がか細いのがリアルだ。
オチはちょっと意外な感じでしたが、読みなおすと、そうなるなと納得しました。そういえば冒頭からそういう感じだった。ラストまできれいにまとまっていた印象です。「歴史的な日」というシンプルなタイトルが活きる。
以上10作、楽しませていただきました。ありがとうございました!