2019年5月のいわさきちひろ美術館を皮切りに各地を巡回していたショーン・タンの展覧会がついに横浜のそごう美術館にも来ました。開幕当初から盛り上がっていたのは知っていたのですが、いろいろあって行きそびれていたので、いそいそと観に行ってきました。横浜に来てくれてありがたかった。行ってよかった。とても良かった!
もともとショーン・タンについてはイラストをちらっと見たことがあるくらいの知識しかなく、ポスターに描かれている不思議生物からブリューゲルとかボスとか、そういう系の人かと思っていたけど、それとはまた違う印象でした。ショーン・タンはショーン・タンだった。見事に撃ち抜かれて、帰るときにはしっかりと彼の本を持っていました。『遠い町から来た話』、まだ読んでないけど会場で見た絵がすごく好きだったので。『記憶喪失装置』と『葬送』が特に目当ての作品でした。あの絵を手元に置いておきたかった。
画家には画風というものがあると思っていたのですが、ショーン・タンは作品によって絵のタッチを変えているところがすごい。なんていうか、単純に、絵が上手いんだろうな。絵が上手いという事実のうえに、個性が乗っかってるかんじ。これは最強だ。
ちなみにまだ観に行っていないひとにこれだけは先に言っておきたいのですが、そごう美術館では毎日14時・15時・16時のタイミングで『ロスト・シング』のアニメーション上映会(約16分)があるので、ぜひご覧ください。会場に入る手前に予約受付テーブルがあるので、そこで忘れずチケットを入手してください。定員になったら受付終了です。平日16時の回は満席でしたが、席が埋まったのは公演直前だったようなので、早めに会場入りして中で絵を観て待っていれば問題ないです。
この『ロスト・シング』は不思議な迷子の生き物(?)との出会いの話なのですが、「迷子」の造形がめちゃくちゃ好みで、もう少しでDVDを買うところだった。個人的な好みで「小さくてかわいい」よりも「大きくてかわいい」ものの方がきゅんきゅんするので、「迷子」は非常にツボでした。後ろからひょこひょこついてくるのたまらない。無機物系生物好きやスチームパンク系が好きな人、ムジカ・ピッコリーノとか好きな人には刺さると思います。絵本は追って入手するつもりだけど(結構サイズが大きくて、当日は持って帰れず断念した)、やっぱりDVDも欲しいかも……。彼らが立てる音が良かったよなぁ。
移民の物語である『アライバル』についても、噂は聞いていたけどよく知りませんでした。しかし実物を前にするとこれか!と大いに納得。これは名作だろうなぁ。写真のアルバムを模した写実的なタッチなんですが、幻想的な街の風景と違和感なく混じり合っていた。食卓のシーンと街のランドスケープと、巨人の夜がすごく好きだった。「言葉の通じない見知らぬ土地にきた移民には、移住先の世界がすべて不可思議なものにみえる」というようなキャプションが書かれていたけど、確かにそうなんだろうなぁ。旅行に行くのとは違う、そこで生活していく不安と決意と好奇心、細かいストレスを無視する強さとちょっと諦めとか。絵の端まで油断のない構成と、丁寧な筆致が好き。
他にも既刊の著作のイラストとか、作品になる前のスケッチとか、旅先の油絵とか、インタビュー動画とか、盛り沢山で満足でした。アニメーション鑑賞含め、2時間くらい会場で過ごしていた。きっとこれから私の本棚に、ショーン・タンの本が増えていくことでしょう。
横浜では2020/10/18まで開催されています。まだ観ていない方も、すでに観たかたも、ぜひ。