好物日記

本を読んだり美術館に行ったりする人の日記

「2022年の『ユリシーズ』」の読書会(第七回:第七挿話)に参加しました

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8月にzoomにてオンライン開催された「2022年の『ユリシーズ』」の読書会に、今回も参加しました。
この2019年に始まったこの読書会は、『ユリシーズ』刊行100周年である2022年まで、3年かけて『ユリシーズ』を読んでいこうという壮大な企画で、ジェイムズ・ジョイスの研究者である南谷奉良さん、小林広直さん、平繁佳織さんの3名が主催されているものです。

名前が有名な割に読了率が低いと噂の『ユリシーズ』、特に今回の第七挿話は結構な難関らしい。しかも読書会で使う課題本は柳瀬訳なので、文体に非常に癖がある。実際話が右往左往していて、ちょっと読みにくかったです。集英社版は注釈も豊富で理解しやすいというのは聞いているけど、これまで柳瀬訳オンリーで読み進めてきたから、ここまで来たら意地でも12挿話までは柳瀬訳のみで進めたい!でもユリシーズ原書(ガブラー版)と柳瀬訳を並行してwordで書き写す「写経」は続けていて、これが結構楽しいのでした。第七挿話は長かったけど、まだ続けてます。すごいぞ私。
ちなみに今回の読書会は夜勤明けでの参戦だったため、コンディション万全でなかったのが悔やまれました。読書会中は新たな発見や驚きの連続なので寝てる暇などないのですが、休憩中はとっても眠かった……。読書会後の懇親会も参加できなかったし、次はリベンジする!

第七挿話は「アイオロス」、ブルーム氏が新聞社内を駆けまわったり、ネッド・ランバートとサイモン・デッダラス、レネハンやマッキュー先生がふざけあったり、父親と入れ違いでスティーヴン・デッダラスが校長の投書を持って訪ねて来たりする場面(懐かしのスティーヴン!)。そして新聞風の小見出しが随所につけられているのが特徴です。

主催者の方々から事前に送られたメールでは「見出しは無視して読み進めるのが吉」と聞いていましたが、写経の都合もあってそのまま読みました。個人的にはこの小見出し、結構好きです。たしかに流れがやや分断されるし意味わからん部分がほとんどだけど、「もう一度だけあの石鹸を」とか「有名レストランでお騒がせ」とか、ちょっとふふっと笑ってしまう。柳瀬さんの訳語チョイスもいい味出しているよなぁ。

しかしこの小見出しはもともと雑誌掲載時にはなかったもので、かつ冒頭の路面電車の部分もあとから追加されたのだとか。そうだったのか!この電車の場面とか、絶対あったほうがいい箇所じゃん!
ダブリンの中心から出たり入ったりして人々を運ぶ路面電車、郵便を配達すべく出入りする馬車、ニュースを集めてまた送り出す新聞社、周辺から中心へ、そして中心から周辺へ、HEARTは中心であり心臓であるという導入の話は、事前に読んだときにモヤモヤ気になっていたものが実にすっきりする見方でした。ここで描かれているのは、アクティブに活動している、今生きてるダブリンだ。でもこれはジョイスが後から再構築したダブリンでもあるというのがまた面白い。挿話の最後の方で路面電車が停電するというのもちょっと深読みしたいですよね。心臓が止まるってことはダブリンが一時的に死ぬのかと思ったんだけど、郵便馬車は変わらず動いているからちょっと違うのかな。挿話にたくさん出てくる「中断」の一つなのは確かだけれど。この辺まだちょっと気になる部分です。

実際のところ、読書会前の時点からこの電車のシーンってなんか象徴的で気になるポイント!と思ってはいました。でも、私は読んでいて雰囲気だけで感じている「なんか怪しいポイント」を、ヒントなしで自力でうまく読み解いて説明するっていうのができないんですよね……。なのでこの読書会でちょっとした導入みたいな、読み方のヒントみたいなのを提示されるのがとてもありがたいです。自分の中でいろいろ整理されていくのがわかる。一から十まで説明されるとつまんないんだけど、各自で解釈する余地を残しておいてくれるので、毎回とても楽しい。

これまでもそうだったけれど、第七挿話ともなるとさらに、地層のようにどんどん積み重なってきていたこれまでのセリフや描写の影がちらちら顔を出してきます。まったくもって油断ならない。わかりやすい反復なら自分で気付ける部分もあるけど、言われて「あぁ~!!」というところが大多数ですね。レイヤーが深くなるだけじゃなくて、アイテムも人物も容赦なく増えていくので混乱する。でも、だからこそ面白い。マッキュー先生とかレネハンとか、何の説明もなくしれっといるけど、どちら様ですか……。なんか似顔絵とか書いて人物把握したほうがいいかもしれないな。

しかしせっかくスティーヴンが新聞社に来たのに、ブルームとはまだ対面しないんですね。これまでスティーヴンの独白とブルームの独白とが両方出てきているけど、対面したらどっちがどっちの心象風景なのかがわからなくなるんじゃないかと心配しています。

ユリシーズ』はまだまだ続く。次は第八挿話です。