好物日記

本を読んだり美術館に行ったりする人の日記

高里椎奈『うちの執事に願ったならば 6』を読みました

うちの執事に願ったならば 6 (角川文庫)

うちの執事に願ったならば 6 (角川文庫)

久々になにか軽いものを…ということで、安心安全ほんわかミステリーを読みました。和む。
由緒正しい名家の御曹司・花穎が立派な当主を目指して成長する話であり、彼を支える年若い執事・衣更月が理想の執事を目指して成長する話です。

よく考えたら衣更月には理想の執事の完成形である鳳という偉大なモデルが存在するわけで、具体的な目標を間近に見た経験がある。でも花穎のほうは先代である父親を理想の当主として見ているわけではなさそうだ。となると、花穎が目標とする「立派な当主」のモデルというのはこの人!という具体例ではなくて、「あの家のあの当主のああいうところが良いな」みたいな部分部分を寄せ集めたものになりそう。そしてそれを一つの形としてみなすなら、「あの衣更月も認める立派な当主」という形に集束するのだろう。

そう考えると余計に過去の巻で衣更月の口にした言葉の衝撃がうかがえる。

『私は花穎様に理想の当主になって頂きたいとは最早、思っておりません』(P.148)

読者は舞台裏を知っているので、上の言葉がどのような経緯を辿って発せられたかを理解しているわけですが、花穎はそんなことは知らない。言葉は誤解を生み、心に波風を立たせて、でも言葉を発した側はその齟齬に気付かない。
けどようやくこの巻で衣更月が自身の失言に気づきました。遅かったけど、まだ間に合うよ。

このシリーズを読んでいていつも感じるのが日常生活の大切さ、というか住環境を豊かにすることがいかに心を豊かにするかということです。私が食器好きだからというのもあるけれど、食器の描写がとても好き。あと調度品が美しいのも良い。映画版は結局観てないけど、屋敷のインテリア部分だけでも舐めるように見たいな…書斎の机とか銀のトレイとか朝の紅茶とか。
そしてティーカップはやっぱり自分でも買おうと思いました。ソーサ―付きで飲みたい。毎度の食事も丁寧に味わおう。暮らしを大事にしよう。心に余裕があるから暮らしが丁寧になるというのはあると思うけど、暮らしを丁寧にすることで心に余裕が生まれるというのもあると思う。卵が先か鶏が先か、みたいな。
とはいえうちには執事も料理人もいないので自分でやらなきゃいけないわけですが…できるところから工夫をしていこう。まずは机の上を片付けるか。
いずれ書斎のある家に住みたいなぁ。今の生活をうまく整理すれば、あまり深く考えることなく、システマチックに快適な日々を送れるのでは?夢は広がる。今からでもできることが、少しくらいはあるはずだ。

おまけ。登場人物が皆可愛い。昴君いいなぁ。石漱君の率直さはいつも好ましいし、沢鷹兄妹の距離感も好きだ。
しかし登場人物の大半が歳下になると、私も大人になったのだなぁといつも思う。社会の片鱗を覗き、守られていた世界とのギャップに衝撃を受けるのがだいたい大学生や新社会人あたりだろう。これまでのやり方だけではうまくいかなくなる頃合い。10代とはまた違う悩みを持つ年代。

久しぶりに水族館に行きたくなりました。そろそろお出掛けできる頃合いかな。