好物日記

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ギョーム・ド・ベルティエ・ド・ソヴィニー『フランス史』を読みました

フランス史 (講談社選書メチエ)

フランス史 (講談社選書メチエ)

最近ずっとブログを書いていなかったことについては、自分でも気になっていました。単純に、読み終えた本がなくて書けなかったのです。ずっと分厚い本にばかりかまけていたので。しかしついに読み終わりましたよ!
この『フランス史』は600頁超の大著でした。長かったけれど読んでよかった!とても良かった!

そもそもこれを読むことにしたのは、フランス史全体の流れを知りたかったからです。小説を読んでいると主要な歴史トピックはなんとなく出てくるのですが、そのトピックに至るまでの道筋を理解していなくて。フランス革命とか、100年戦争とか、点として名前は知っていても、その点から点への経緯がよくわからなかった。ので、ずっとどこかで腰を据えて通史を読まねばと思っていました。
そこで本屋に行ってみたところ、一番わかりやすそうだったのが本書だったというわけです。分厚いですけど!
先史時代から書いてくれているところに好感が持てるし、監訳が鹿島茂というところも信頼できる。なにより「はじめに」の冒頭の文章が良かった。

本書の執筆を筆者が思い立ったのは、簡単な事実に気がついた結果である。すなわち、ある程度高度な水準において、ハイ・レベルな高名なアカデミー会員あるいは大学教授たちによって著され、しばしば豪華な図版に飾られているフランス史の本は、選択が困難なほど数多く出版されているのに反して、初めての入門書として若者たちが気軽に手にすることができるような、あるいはフランス文化に関心を抱いている外国人たちに気楽に薦めることができるような、簡単なフランス史の本は見当たらないという事実である。(P.3)

そうなんです!まぁこの分厚さの本を気軽に薦めることができるかどうかは別として、点としてのトピックを深堀りしたり、特定の時代を解説したりというものではなくて、フランスという国の歴史の輪郭を捉えることができるような本があまりないということは私も書店に探しに行ったときに初めて気がつきました。大国すぎてまとめるのが難しいのでしょう。だからこの本は、簡略化しすぎず、時系列に沿って主要なトピックをまとめてくれている貴重な一冊です。おかげで、実際自分の中でだいぶ整理できました。これは本棚に置いて、必要に応じて参照する種類の本であり、でも少なくとも一度は通しで読まなくちゃいけない本です。参考文献リストだけで20頁を越えているので、この時代のここをもう少し知りたい、というときにはこの参考文献を頼りに調べればよい。非常にありがたい。


ヨーロッパ史は国境がぐるぐる動くし、あると思ってた大国が崩壊したりするし、隣国の王族同士で結婚とかするしでややこしいなぁとずっと思っていたのでした。本書を読んでいて特にややこしかったのが、領地と支配者が必ずしも一致しないところ。

 この作戦の成功により、ルイ十二世はナポリを取り戻そうと考えるようになった。
 スペインの介入は警戒しなければならなかった。アラゴン家のフェルナンドは、すでにシチリア王の称号を得ていたが、一四九六年にナポリ王位を継承していた従兄弟のフェデリーコ三世を、当然ながら擁護する可能性が考えられたからである。(P.160)

上記は16世紀末の話の抜粋なのですが、シチリア王であるアラゴン家のフェルナンドって、どういう立ち位置なの!?というのでまず混乱します。シチリア王なのにシチリアにいないってどういうこと…?
この頃の王国とか公国って、王位を違う国の王族が継承しても、国の名前は変わらないんですね。国の定義がよくわからなくなってきます。それって地方の名前と同じなのでは?支配者層の家系と、被支配者層の領民との関係がいまいち理解しきれていない。この辺りの考え方を、感覚としてもう少しなじませたい。

それからゲルマン人アングロサクソン人、フランク人など、それぞれの民族の出自や文化の違いを具体的に知ることができたのは良かった。キリスト教の馴染み方の違いなどが面白かった。そして彼らの血がどんどん混じりあっていったのも良くわかりました。
中でも気になったのは人の名前。とくにフランス語読みではシャルルマーニュ大帝と呼ばれ、ドイツ語読みではカール大帝と呼ばれた彼は英語読みするとチャールズになるわけで、ややこしいったらない。日本ではなんて呼べばいいんだ?
あとシャルルマーニュの家系がカロリング朝なわけですが、子孫にシャルルが何人もいることに彼らは疑問を覚えないんだろうか…おじいさんと孫が同じ名前というのは別段珍しくないってことは知ってるけども、「シャルル(禿頭王・祖父)と「シャルル(単純王・孫)」がいるって、やりにくいでしょうにと思うんですが、別に支障なかったのかなぁ…


ちなみに分厚い本を通しで読むときのテンションに一番影響するのが文章のスタイルですが、この本はそんなに教科書っぽくもないのが良い所でした。むしろ文章が上手くて楽しく読めたくらい。訳も良いのでしょう。
あとがきによれば、著者は外国人学生を積極的に受け入れているパリ・カトリック学院の教員だったそうです。そこで「フランス語で書かれた簡便なフランス史が存在しない」という事実に気付き、この本を書いたのだとか。気づいてくれてよかった、と鹿島茂も書いているけど全くその通りだ。気づいたのがソヴィニーで良かったし、講談社が日本語訳を出版してくれてよかった。実はこの本、なかなか出版社が見つからなかったらしいのですが、2019年4月に無事に講談社メチエから出たばかりなのでした。ありがとう講談社講談社選書メチエはだいたい間違いないイメージです。
この本の「フランス史」はミッテランが大統領を務めた1995年までをカバーしています。近現代史はだいたい世界史の授業も追いつかないから助かります。しかし思ってたよりずいぶん最近まで書かれていてびっくりでした。ついこないだじゃん…これからの学生さんはこの本があって幸運ですね!

しかし一周読んだだけでフランス史は完璧だ、ということは当然できません。少なくとも私には無理だった。何周もしないと。
ヨーロッパの国々は歴史上お互い関わり合わずにはいられないので、他の国の通史も読んでヨーロッパ史として補強していくつもりです。今は灰色の薄い線でしかない部分も、何度も何度もその部分をなぞることでだんだん濃くなっていくと思うので。楽しみだなぁ。次はどこの国にしようかな。