好物日記

本を読んだり美術館に行ったりする人の日記

パラボリカ・ビス「山尾悠子+中川多理『翼と宝冠』展」に行ってきました

www.yaso-peyotl.com

東京・浅草橋にあるパラボリカ・ビスで開催している中川多理の人形の展示会に行ってきました。山尾悠子の文章と中川多理の人形のコラボ本『小鳥たち』に登場する「小鳥の侍女たち」をテーマにした展示会です。

山尾悠子は『飛ぶ孔雀』を読んで一気にハマってからずっと好きなのですが、中川多理のことを知ったのは『小鳥たち』が最初です。
というか、人形浄瑠璃は観るものの、じっと飾られるだけの人形というのは東西問わず苦手な部類でした。怪談も多いし。夜中に動いたりするんでしょ?捨てられたら歩いて戻ってくるんでしょ?
でも『小鳥たち』の本に載っていた中川多理の人形は、写真でみてもハッとするようなオーラがあって、目を奪われてしまった。人形の「人形っぽさ」が逆に「生きものっぽさ」を醸し出していて、でも明らかに人形で、とても美しい。中川多理は、人形でなければできないことをやっているんだと思います。

特に山尾悠子の『小鳥たち』に写真が載せられていた侍女の人形は、本を読んだ時からぜひともこの目で見てみたいと思っていたので、『翼と宝冠』展というのが東京でやると聞いて絶対行かねばならないと決心していました。そして、ついに、行ってきた。

いやあ、無事にお目にかかれてよかったです。侍女、レースの服とか小さい足とか、めちゃくちゃ可愛いのにどこか不穏で、まさに小鳥の侍女。人形も良いのですが、周りの装飾品もいいですね。服とか含めてひとつの世界という感じ。そして何よりあの鳥仮面あっての侍女でした。いいなぁ、あれ。異形っぽさが凄く出ている。今回の展示品はそんなに多くなかったのですが、その分じっくり見られました。
ちなみに作品の目玉として、赤子を抱いた人形がいるのですが、これは『小鳥たち』の本には出てこないキャラクターです。しかしこの会場で売られている『翼と宝冠』という豆本を読むとその来歴がわかるようになっています。私は会場で先に人形を見て、家に帰ってから豆本を読んで納得しました。そして豆本読みながら、彼女の足をずっと思い返していた。豆本を読んでから再び観に来るファンもいそうだな。

そう、豆本があるのですよ。『小鳥たち』未収録エピソードの、手のひらサイズの豆本。文字は小さいけど、虫眼鏡で見るほど小さくはないです。人形の写真は無しで、山尾悠子の文章を堪能するための豆本。でも今回の展示を味わうためにぜひとも読んでほしい豆本。『小鳥たち』の世界はここで完結とのこと。
老大公妃はやっぱり良いなぁ…。老大公妃の人形は今回出ていなかったのですが、どこかで御目文字できるだろうか。次の機会をお待ちしています。

しかし人形って不思議だなぁとしみじみ感じました。中川多理の写真集も買ってしまった。ドール沼は底なしと聞きますが、そうだろうなと思う。人形って短歌も高いわけですが、それでも買っちゃう人の気持ちが、少しわかった気がする。あれは魔力がある。買う人が「お迎えする」と表現する気持ちも、わかった気がする。あれは「うちの子」と言っちゃうわ…わかるわ…。特に買うつもりはないですけども。人形師ってたぶん神の一種なのだと思います。まさに創造神だ。

非常に良い時間を過ごしました。中川多理の展示は機会があればこれからも行きたいです。「貴腐なる少年たちの肖像」の背徳と倒錯の美とか、間近で見たい…