好物日記

本を読んだり美術館に行ったりする人の日記

森美術館「未来と芸術展」に行ってきました

www.mori.art.museum

森美術館って普段あまり行かないのですが、今回の展示はSF好きの血が騒いだので、観に行ってきました。結論としては、めちゃくちゃ良かったです。好みのストライクゾーンどまんなかでした。
森美術館は夜22時まで開館しているので、今回は平日仕事が終わった19時過ぎに会場入りしました。しかし目を皿のようにして見尽くし、キャプションを読み、映像をなめるように観ていたら、あっと今に閉館時間になってしまった。それでも足りなかった…映像が結構多いので、全部観ていたら多分一日かかります。45分のビデオもありましたし。正直もう一度行きたいレベルだ。出品目録が欲しくて、展覧会カタログも買ってしまいました。今この記事を書くためにあらためてカタログ開いてもニヤニヤしてしまう。

展示内容は5つのセクションに分かれています。

SECTION1 都市の新たな可能性
SECTION2 ネオ・メタボリズム建築へ
SECTION3 ライフスタイルとデザインの革新
SECTION4 身体の拡張と倫理
SECTION5 変容する社会と人間

全セクション通して問いかけてくるのは、変わりゆく世界でこれから人類はどのように生きてゆくのか、ということです。
地球温暖化によって海面が上昇する、あるいは単純に居住面積に対して人口が増加していくことが予想される場合、ヒトはどこでどうやって生活するのか?多分ポイントは「生存する」ではなく「生活する」ということで、生き延びればいいというものではないということです。健康で文化的な最低限度の生活は絶対必要、でもそれだけじゃ生きていることにはならない。人生を謳歌するには、幸せを感じて生活するには、どうすればいいだろうか?

例えばビャルケ・インゲルス・グループは、海の上にモジュール型の都市を作ることを提案する。「オーシャニクス・シティ(Oceanix City)」と名付けられたそれは、展示を見てるとお金と時間さえあれば今すぐにでもできそうな感じがするけど、どうなのだろうか。雲の上の都市「クラウド・シティ」はちょっと難しそうだけど、構想としては非常にわくわくする。結局陸地が足りないのであれば海か空に行くしかなくて(あるいは地中?今回は無かったけど)、空も突き抜ければ宇宙に達する。火星での生活を想定したNASA公募のコンペ作品もあって、もうたまらなかったです。
大抵の作品にプロモーション動画がついているのもイメージがわきやすいし、単純に観ていて楽しかったです。いちいち真面目に見ていたので時間がかかったんだな…でも観ちゃうじゃん…

1960年代のメタボリズム運動を現代の技術を駆使して実現したなら、という問いが本展示の根底にあるとのこと。巷で話題のサスティナビリティとか持続可能な開発目標とか、そんな世相的後押しも相俟って、メタボリズムを復活させるなら今でしょ!という気はします。あらゆるものがどんどんモジュール化していくの、なかなか面白いですね。いずれ反動の波がくるのだろうけど、どんなのが来るのかも楽しみだ。
あと、とくに今回の展示では3Dプリンタの存在感が凄かったです。レシピを覚えさせれば勝手に作ってくれるって、革命だな。3Dプリンタ自身が自分でレシピ調合して作れるようになるのも、たぶんそんなに時間はかからないでしょう。楽しみだな。どこからが芸術なのか問題がリアルになるな。

まさにSFが描いていた未来がもう現実になっていて、あんなことこんなこともできちゃうんだ!という驚きがすごい。技術に対して社会が追い付いていない部分についての展示もすごく面白くて、ほんとに、一日では見切れないくらいのラインナップでした。

以下、気に入ったもの気になったものリストです。

■OPEN MEALS「SUSHI SINGULARITY」

インパクト抜群の人工魚介を使った次世代SUSHI!電通主導のプロジェクトのようです。プロジェクトメンバーに東北新社が入ってるのはなんとなくわかるけど、山形大学まであってびっくりでした。ちなみにこの寿司、3Dプリンタで作られるのですが、デモ映像で大将が包丁研いでるのがあまりにもお飾りすぎて笑ってしまった。絶対包丁使わないでしょ!
気になる方は下記をご覧ください。

www.open-meals.com

■MX3D&ヨリス・ラーマン・ラボ「MX3Dの橋」

金属3Dプリンタで作成された橋。アムステルダムに実際に架かる予定とのことなので、やっぱオランダ行かなくては。流線形のデザインがとても美しいだけではなくて、人が渡る道になる部分にセンサーが仕込まれていて、データの収集ができるのだとか。なにそれ格好いい!!

■ニュー・テリトリーズ/フランソワ・ロッシュ「気分の建築」

アーティスティックな作品、というか建築手法確立のためのプロジェクトとのこと。非常に面白かった。

従来の集合建築の設計では、居住スペースは、床面積、必要な部屋数、主となる交通・移動手段、近隣の環境や想定される住人の生活習慣などの条件から帰納的に導き出される。それに対し、本プロジェクトでは、住人の深層心理や生理学的な情報(ドーパミンセロトニン、アドレナリン、コルチゾールなどの生体物質)を計測・解析し、それらを建築設計の要素として採用することで、住人の深層的な願望にもとづいた、理想の建築を計画することを提案している。(『未来と芸術』カタログ P.242)

そして病院のような場所でカウンセリングをしたり、自己の内面の迷宮に迷い込んだり、ロボットが構造体を生み出したりしているデモムービーが流れていました。現実世界での建築では無理でも、多分電子レベル世界での建築なら、ああいうのが良いと思います……ていうか、ほんと、そんなのありか!と叫びたくなった。だってこれ、アリスのワンダーランドみたいじゃないですか。意識の迷宮を彷徨うとか、どこのファンタジーだ…。
構造体を生み出すロボットの緩慢な動きがやけに官能的でした。

長谷川愛「シェアード・ベイビー」

「遺伝的に複数の親を持つ子どもが実現したら、子育てはどう変化するのか」を考察する作品らしいのですが、正直子育てレベルの話じゃない。そこが、とても面白い。
技術的にはすでに可能なんですよ、とインタビュー映像で大学教授は言う。2016年にミトコンドリアDNA疾患の治療で3人の親の遺伝子情報を引き継ぐ子どもが、現実に生まれているという。これまで存在しなかったものというのは、いつだって社会に衝撃を与えるものだ。だからこそフィクションで、あるいは仮定の世界で、何度も何度も考えることが必要なのだと思っています。そしてそういう思考実験は決して不謹慎なものではないし、見たくないモノに蓋をして目をそらすよりもよほど健全だ。選択肢を増やすこと自体を忌み嫌っていたら、先にあるのは滅亡しかないだろう。別に反対したっていい、ただ、考えることをやめてはいけないのだ。


他にも面白い展示は山のようにありましたが、きりがないのでこのへんで。未来はもうすぐそこなんだな、というのが実感できる、とても良い展示でした。
やっぱりもう一度行きたいな…