好物日記

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紀平英作・編『アメリカ史(下)』を読みました

アメリカ史  下 (YAMAKAWA SELECTION)

アメリカ史 下 (YAMAKAWA SELECTION)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 山川出版社
  • 発売日: 2019/08/02
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

『アメリカ史(上)』に続き、下巻を読み終わりました。下巻は1897年からトランプ大統領までをカバーしています。20世紀のアメリカがめちゃくちゃ濃くてすごかった。21世紀はそこまで詳しく書かれていないのですが(本書は概説なので、21世紀に限らず、個々の時代や事件についてそこまで深堀りしているわけではない)、それでも約100年の間にどんなことがあったのかとか、オバマさんが大統領になったことがいかに衝撃的なことだったかとか、そこからのトランプさんへの流れが、以前よりははわかるようになりました。あくまでも流れではあるけど、最初にストーリーとして歴史を認識できると、個々の事象への理解がしやすくなると思う。

あまりにも興味がないがゆえに、銀行や金利などの経済の話になると途端に訳が分からなくなってしまうというのが私の弱点です。最近のニュースでも貿易が~とか金利が~とか言われてもまるでぴんとこない。とはいえ経済抜きで歴史を語るのはやっぱり無理ですね。いやわかってはいたけれど、特に中央銀行ができて市場が国内だけでなく世界に広まった後の世界史は、経済抜きで語れはしない。噂の大恐慌ついに来たとか、マーシャル・プランやニューディール政策とか聞いたことあるなとか思いながら読んでいたけど、やっぱりあまりにも興味がなくて読むのしんどかったです…。

面白いなと思ったのが、ヨーロッパ世界のあれこれに対して極力関わらない孤立主義モンロー主義)を貫いてきたアメリカが、世界の警察官を名乗るほど積極的に介入するように変わっていく流れです。時代の変化と言ってしまえばそれまでなのですが、とても興味深い。アメリカ史を読み始めた時にはモンロー主義という考え方があったこと自体知らなかったので、「孤立主義!?あのアメリカが!?」と驚きましたが、そこから大転換したこと、そちらに舵を切る決心をしたということがすごい。20世紀初頭、ローズヴェルトの時が転換期だったようですね。

 さらにローズヴェルトは一九〇四年十二月、「モンロー主義へのローズヴェルトの系(コロラリー)」として知られる外交方針を発表した。これは西半球において対外債務不履行や政治的不安定など、当事国の非行ないし無能力が目にあまる場合には、モンロー主義に忠実であるアメリカが国際警察権力を発動せざるをえない場合があるという内容であった。同じモンロー主義ということばを使ってはいたが、かつて西半球へのヨーロッパの非干渉を求めた教義が、いまやアメリカの干渉を正当化する、反革命の教義へと転化したのである。(P.27-28)

この強かさ!「え、私ずっとモンロー主義ですけど?」みたいなことをしれっと言っておきながら、やってること全然違うっていうのが、やり手だなぁ。こういうことできちゃうんだな。とばっちりにあう他国からすれば何言ってんのって感じではあるのですが、アメリカとしても自分の身を守る必要はある、というのはわからなくもない。
でも、だからといって義を置き去りにするのはよろしくない。そういう意味で冷戦期、特に1950年代のアメリカの非道さはちょっと目に余るように思う。読みながら、堕落したなと思っていました。

一九四八年にイスラエルが成立したあとの中東の紛争も、アイゼンハワー政権の外交戦略にとって重要課題となった。アメリカの関心の根底にはこの地域の石油資源への利害があり、五三年にはCIAがイランのクーデタを演出して民族主義的政権を倒し、親米的なパーレヴィ国王の独裁体制をつくりだした。(P.115)

傀儡政権とするために独裁者を擁立するとか、やってることが見事に悪役である。建国初期からの歴史を追いかけて読んでいってただけに、最初はあんなに若々しい希望に燃えて地上の楽園を創り出そうとしていたのに!と、たまらない気持ちにもなります。多分アメリカの若者もそういう気持ちにはなったのだろうと思うし、だから反戦運動も活発化していったのだろうとは思いますが。義を置き去りにすると、自尊心が損なわれるんですよね。

とはいえ、つい100年前の社会がどれだけ今と違ったかを考えると、やはり感慨深いものがある。揺り戻しが起きている印象はあるけど、でも100年前より今のほうが絶対に良くなっている。前には進んでいる。
一方で、アメリカという国が一体誰のものなのかというのはこれからもずっと問い続ける必要のある問題でしょう。居心地の良い共同体というのは異物を排斥することで成り立つことが多いので、これまでのアメリカの歴史の中で蔑ろにしてきた多数の人々とどうやって折り合いをつけていくのかというのは、かなり大変な問題だと思う。そして日本も他人事ではないだろう。そうなるとやっぱり気になるのが、同じく移民国家であるオーストラリアやカナダがどういう経緯をたどって今に至ったかということです。
さらに興味の範囲は広がりますが、そのあたりは後のお楽しみにとっておくとして…本書は日本の学者によるアメリカ史だったので、次はアメリカの学者によるアメリカ史を読み始めました。できれば英国の学者によるアメリカ史も読みたいのですが、それはもう少し後になりそうだ…。

おまけ。
ちなみに本書を読んでいるときの脳内BGMは、RAMMSTEINの "Amerika" でした。We're all living in Amerika, Coca-Cola, sometimes WAR.
自由主義という名の全体主義に飲み込まれたくはないなと思います。

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