好物日記

本を読んだり美術館に行ったりする人の日記

国立民族学博物館『驚異と怪異 想像界の生きものたち』を観てきました

www.minpaku.ac.jp

みんぱくの『驚異と怪異』展が非常に良いと評判だったので、関東からはるばる観に行ってきました。
というか、「行ってくる!」という人がいたので背中を押されて便乗しました。しかしやっぱりみんぱくは楽しいな。

朝早い新幹線で新大阪まで行き、みんぱくへは午後から入館しました。13時半くらいに入館して、16時過ぎくらいに観終わりましたが…改めて考えると特別展だけで3時間弱過ごしたのか。でも内容盛り沢山だったんですよ!
時間が許せば企画展も、と思っていたけれど、わかっていた。どうせそこまで手が回らないであろうことは…

『驚異と怪異』展は、想像上の生き物たちについての展示です。「水」「天」「地」の三つのゾーンに分けて展示されていたのですが、改めて考えると、あらゆる生物は概ねこの三つでカバーできるんですね。例えば「水」は人魚や龍、「天」は怪鳥やペガサス、「地」は巨人や怪獣など。「地」は人里離れた森の中などを棲み処とするものが多いのですが、昔は夜になると真っ暗だったから、扉一枚隔てたところにも怪異はあったんだろうな。そして「天」は宗教との関わりもあるし、やっぱり手の届かない憧れの存在という感じだ。翼を持つものというのはロマンなのだ。龍とドラゴンが天にカテゴライズされていたのですが、なんだか龍はあまりにも普段から見慣れていて、あまりレア感が無いのが自分でもおかしかったです。実物を見慣れているわけでもないのにな。でも断然ドラゴンよりも龍派だな。

想像上の生物の多くが神性を帯びるのは、希少性からでしょうか?なぜ畏敬の念を抱くのでしょうか。それに、いそうでいない動物というだけならそこまで語り継がれたりいろんな設定が付与されたりすることもないでしょうに、天狗とか河童とか、事細かにキャラ付けがされていくのも不思議。「俺は見たぜ!」みたいなタイプか、あるいは語りを生業にする人なんかが、どんどん尾ひれをつけて人々の頭のなかの生き物を育てていったのか。書として記録に残ると、それまでそんなもの聞いたこともなかった地域で「目撃」されたりして生息地域を広げて行ったりするのかな。などと考えるととても面白い。

そして一方で、この動物は消化器官がどうなっているのかとか、この生物はどうやって子孫を残すのかとか、生物学的観点で考えるのも楽しい。人魚って卵で産まれるのか?へそがないもんな。
などと思っていたら、「人魚のミイラ」なるものが展示されていて、さらにそれのレントゲン写真まで展示されていました!この展示が一番テンションが上がりました。やるなみんぱく!暴いちゃうのか!
人魚のミイラというのは、腕は肘で折って手は顔の前に置くなど、一種の形式があるようでした。あまり美人ではないけど、黒い髪も生えていて、下半身は魚。背中に尾びれがついている。
下半身の魚部分と背中の尾びれは、何かの魚を使っているようで、レントゲンにも魚の背骨が写っていました。頭は骨があるけど、サルかあるいは子供の頭蓋骨か。当然頭と下半身の魚とがひとつの背骨でつながっているわけではなく、胴体には藁でも詰めてあるのでしょう、肋骨もなかったです。貴重なものだから触るなとか言いながら売るのでしょうけど、買う方はどれくらいわかっていて買うんですかね。本気で信じて買うのと大店の旦那が余興で買うので半々くらいだろうか?人魚の肉は不死の妙薬だけど、ミイラじゃそれもできないし…。しかしみんぱくはどうやって手に入れたんだろう。あるところにはあるんだな。

会場となっている建物は二階建てで、二階には主に書籍の紹介がされていました。絵に描かれた怪異や博物学的分類をされた想像上の生き物たち。古今東西どこにでも独特の何かがいるものだけど、その独特さは地形や気候や暮らし方やその土地の宗教などに影響を受けているのだ。間違いなく民族学だ。
最新のものではファイナルファンタジーに出てくるドラゴンの話まで出ていて、筋肉の付き方も考えてグラフィック化しているという制作過程の紹介も面白かったです。そういう地味な設定が世界を肉厚にしていくんだよなぁ。

みんぱくが本気出したヴンダーカンマーという感じで、とっても面白かったです。常設展もまたゆっくり観たいな。