好物日記

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映画『去年マリエンバートで』を観てきました

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シャネルの協力でリマスター版が出たヌーベルバーグの代表作を映画館で観てきました。ありがとう恵比寿ガーデンシネマ!!
前から気にはなっていたもののずっと見逃していたので、スクリーンで観られて嬉しかった。シャネルの協力で、というのは、衣装がシャネルだからです。

舞台はゴシック様式の豪奢なホテル、主な登頂人物は三人。二人の男と、一人の女。女Aは男Mと夫婦関係にあるが、もう一人の男Xは女Aに迎えに来たと話しかける。女Aは男Xのことを知らないというが、男Xはいろんなエピソードを披露して一年前に交わした約束を思い出させようとする。一年前の、駆け落ちの約束のことを…。

去年のあのときあんなことがあったね、あの時あなたはこういったじゃないか、とあの手この手で記憶を引きずり出そうとする誘導尋問のようなXの語りとまとわりつくような視線が素晴らしい。Aはまるで覚えていなくて、困ったような社交辞令的な笑みを浮かべる、けどだんだん思い出していく恐ろしさ。Mはちょくちょく現れるけど、何かヒントを出すわけでもない。あの不気味さ!どれもたまらない。
サスペンスなのですが、最終的にこれが答えだ!というのが明かされないままそれっぽく終わります。黒澤監督の『羅生門』に触発された脚本だというのを後で知って納得。ちゃんと整合性のとれた作り方になっているとのことなので、謎解きの本や論文があればちょっと読んでみたいです。できれば自分で分析したいけど、ここまで有名な映画ならすでにどなたかやっているでしょう。
とはいえ正確なストーリーを整理することがこの映画のメインではないとも思う。気になっちゃうことは、気になっちゃうんですけど。

ではメインは何か?人によって変わるということにはなるでしょうけど、私が目を奪われたのはその映像美でした。たまりませんね!!冒頭のところでもうノックアウトされた。幻想文学を映像化したみたいだ。あのゴシック様式のホテルがとても良い。そして執拗に繰り返されるモノローグにぞくぞくする。誰もいないホテル、きらびやかな装飾、遠くからやって来る声は同じテキストを繰り返す。また初めから、繰り返し。

どうでもいい話ですが、タイトルに入っているマリエンバートが実際には大して出てこないことが地味に驚きでした。場所は関係ない、名前も関係ない、とXは言っていたけど、ほんとかな?


以下、一応ネタバレ防止に隠しておきます。


そこが本題じゃないとは言いながら、結局本当のストーリーは何なのかというのは気になってしまうので、やっぱり少し書いておく。記憶頼りでつらいけど…

映画冒頭のあの執拗な繰り返しは、あのホテルがこの世のものではないというのを伝えていたのではないか。天国に行けずにこの世を彷徨うものが交わる場所だったのでは。今映画の内容を思い出しながらこの記事を書いていますけど、あの不気味さは思い出してもちょっと背後が怖い気持ちになる。あ、だめ、今後ろ振り向けない。IFが多重化する世界は怖いんですよ…

Xの主張によればAは夫に撃たれたことになるけど、それはそれで非常に怪しい。だって彼、たぶん都合のいいように記憶改ざんしてましたよね。「違う、合意の上だった!」なんて自分に言い聞かせなきゃいけないのは合意の上ではなかったからでしょ。とはいえAの記憶の通りベランダから落ちたのだとしたら、その後のAはどうなるのかという疑問も残る。最後にAとXが二人で出ていくところから、二人とも死んでいるのだと思われるのですが…XとAがお互いに「相手が死んだ」と思っているあたりがポイントな気がする。自分がいつ死んだのかは覚えてないの?でもXは相手が死んだと(自分の記憶では)分かっていながら迎えに来るってことは、やっぱあなたも生きてはいないでしょ?Mが黙って二人を送り出したのは、彼だけが生きているからでは?しかしそうなると、Xが迎えに来たそのホテルは、いったいどういう場所なわけ?Aが死んだのは一年前ではなく、今年だったのか?そもそもXが約束したのは本当にAだったの?去年と同じホテルに彼らはいるのか?
いやしかしMがXとゲームしたのは今年か。負けないゲームはゲームじゃない、負けるかもしれない、でも私が勝つ。うーん。Xのことは、他の客にも見えているようだったしな…
おそらく映画冒頭の、まるで彫像のように人々が止まっているあのときに、XがAを迎えにホテルにやって来たんだろう。あの演劇がキーなのかな。庭の異様に長い影も不気味だったな。あと机の引き出しに入ってる山のような写真は何だったんだ?あの偏執的な感じがすごく怖かった。
あ、だめだ、真剣に考えだすと背後が怖い。

怖いんだけど、映画の中に意味ありげなアイテムがたくさんちりばめられていて、真実をひそかに告発するのを読み取ろうとするのが楽しい。たぶん、知ろうとする過程が楽しいんだろうな。鏡の位置とか着ている服とか、やっぱりもう一度見直してまとめて自分なりに納得したい。

脚本も魅力的だけど、映像も非常に美しい映画でした。アラン・レネ監督初めて観ましたが、他のも観たくなりました。