好物日記

本を読んだり美術館に行ったりする人の日記

「2022年の『ユリシーズ』」の読書会(第三回:第二挿話)に行ってきました

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「2022年の『ユリシーズ』」第三回に参加しました。ちなみに前回の読書会の記事はこちら
この読書会は『ユリシーズ』刊行100周年である2022年まで、3年かけて『ユリシーズ』を読んでいこうというユニークな企画で、ジェイムズ・ジョイスの研究者である南谷奉良さん、小林広直さん、平繁佳織さんの3名が企画されているものです。

第一回、第二回は神保町で開催されましたが、今回は浅草・合羽橋にあるカフェバーが会場でした。日曜開催とはいえ商売熱心な合羽橋の店はいくつか空いていたので、早めに行ってぶらぶらすればよかった…
また読書会後の懇親会では、みんな一冊ずつ本を持ち寄って紹介し合うという「Wandering Books」という企画があります。今回はアイルランドの歴史に関する本というお題があり、アイルランドの知らない本に出会うことができて楽しかったです。アイルランドと一口に言っても、いろいろ出ているんですね。そして読みたい本リストが一気に長くなって、ほくほくしながら帰宅しました。ちなみに私が紹介した本は『アイルランド幻想』、詳細はこちら

第三回は第二挿話「ネストール」が対象です。スティーヴンが金持ちの坊ちゃまたちを相手に授業をした後、校長からお給料を貰う際にご高説を賜る場面。ストーリーを追うだけであればそんなにつらくはないのですが、スティーヴンの心をよぎるモチーフに馴染みが無さ過ぎて最初は何の事だかわからない部分が多々ありました。そして調べ始めると謎が増えるという恐ろしさ…

第二挿話前半の授業の場面では、子供たちがそれぞれ個性的なのが面白かったです。カミン君は優等生ですね。ピュロスの最期も知ってるし、「これはどこからだったかな」というスティーヴンの問いにすかさず答えたりして、いるなぁこういう子。コクランはアームストロングほど不真面目ではないんだけど、きっと歴史の授業よりホッケーの方が生き生きするタイプだ。ゴールの一つはコクランかもしれない。サージャントはいじめられっ子気質っぽいけど、クラスでうまくやっているのだろうか。

後半の校長との対話は、読書会で非常に盛り上がった部分です。校長の反ユダヤ的な見方は最初に読んだときから鼻についていましたが、思っていた以上に彼は偏見に凝り固まっていた。
特に口蹄疫ユダヤ人の重なりは見落としていたので衝撃でした。「アイルランドの牛は入港禁止になるだろう」と言った口で、ユダヤ人はアイルランドに「断じて入れてやらなかった」と…それでも自分は正義の側に立っていると信じて疑わないんだな。
自分が本当に正しいかどうかを自分で判断するのは難しいものだ。何を大事にするかによって取る行動も変わってくるし。では誰が正しさを判断するのか?となると手っ取り早いのは宗教なのですが、スティーヴンはその宗教を意図して捨てようとしているのであって、そこがとても愛しい。無神論には覚悟が問われるのだ。すべてを疑い、すべてを判断し、その判断に責任を負う覚悟。宗教に帰依していたときには誰かが代わりにやっていたことを自分で全部やるわけだから、その分の労力が必要になる。スティーヴンは茨の道を行くのか。
しかし「歴史はぼくが目覚めようとしている悪夢なんです」とか「あれが神です」とか、スティーヴンは息をするように警句を発するのですが、これって当時のアイルランドでは普通なんだろうか。校長が最後にわざわざ走ってまで追いかけてきたのは、自分も相手をぐっと黙らせるような「うまいこと」を言いたかったのかなと思ってました。一本取ったぞ!という快哉を叫びたかったのかと。
そういえば読書会で、走って追いかけてきた校長にスティーヴンが笑顔に「なりかける」なのはどういうことか?という部分が話題になりました。私も読んでて気になったポイントだったので、同じところを疑問に思う人がいることが面白かったです。私が読んでいたときには、校長の答えにショックを受けて社交上の笑顔を作る途中で思わず固まってしまったのかな、と思いましたが、もう少し先まで読んでから改めて考えたい。


ちなみに今回の第二挿話については、ユリシーズ読書会の一部の参加者によって「写経」と呼ばれている行為に挑みました。英語の原文や日本語訳をノートに書き写すことなのですが、私は字が下手なのでWordで活字タイプ。そして英語が苦手なので日本語訳は必須です。人によって手描きだったり英語だけだったりといろいろで、他の人のノートを見るのも面白い。
そして実際書き出してみると、読むだけではさらっと通り過ぎてしまうところが引っかかったりするんです。不思議。英語は苦手でも対訳のスタイルにすると、ここをこうして訳すのか!というのが理解できて楽しいです。あと、日本語訳でも意味不明な部分の多い『ユリシーズ』は、英語の原文でググると解説がヒットすることが多いので助かるという利点もある。
そしていろいろ試行錯誤してフォーマットを決め、完成したのが以下の写真の状態です。頑張ったので見てください!

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ユリシーズ写経、第二挿話書き込み前

そして読みながらシャープペンシルで感想やらメモを書き込んだ後、赤ペンで読書会で得た情報を書き込んだのが以下の写真の状態です。

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ユリシーズ写経、第二挿話書き込み後

これからの第三挿話以降も続けるつもりなので、またここに戻ってメモを書き足すこともあるでしょう。そしたらもっとぐちゃぐちゃになるはずです。もっと汚してやるんだ。


さて次回は12月、第三挿話なわけですが…6月に一度読んでいるはずなのに一ミリも思い出せない。読み始めたら思い出すかな?今から楽しみにしています。