好物日記

本を読んだり美術館に行ったりする人の日記

笹本祐一『ラスト・レター 妖精作戦PART4』を読みました

最初期のラノベとして名高い『妖精作戦』シリーズを読み終えました。最終巻である4作目もソノラマ文庫版。
多くの作家に衝撃を与えたというこの最終巻について、事前に噂を聞いていたので結末はぼんやりと把握していました。
リアルタイム読者ではないので、そこまでの衝撃はありません。ただ、ただ!もうちょっと深堀りしてくれたっていいのではなかろうか!!!

4巻目のストーリーは、3巻からの続きになっています。転校生の働きによってノブは再びSCFの手の内に落ち、榊・沖田・真田・つばさは懲りずに奪還作戦を決行するという話です。無人島にパラシュート落下したり宇宙船内を逃げ回ったりする。そして沖田が異様なリーダーシップを発揮する(登場人物紹介で「脇役のはずである」と書かれる)。

さて、散々噂になっているこの終わり方は、果たしてアリなのか。1巻で榊・ノブのカップルが生まれたわけですが、執拗に追いかけてくるSCFを追い返して二人は幸せに暮らしました、という終わりでは、もちろんない。そこはわかってました。悲恋だって聞いていたから。
ただ、それにしたってもうちょっと言葉を尽くしてもいいのでは?尽くさないからいいのか?ストーリーとして最後の結末に至る流れも理解できるし非常によくできた話だと思うのですが、言葉が!足りない!もったいない!
しかし1巻に比べると描写が増えたなという印象はあります。話者の姿勢が察せられる場面が増えた。でもまだ物足りない…
悲しいけれど、私の感性が少年少女から遠ざかっているから場面の描写を要求するのだという可能性が高いのであった。

ネタバレなしで書こうと思いましたが、根本的な結末に触れざるを得ないので以下、隠します。


こういう結末に至った経緯については、わからなくもない。
もともとノブは超能力者コンプレックスを抱えていて「普通の女の子として普通に生きていきたいのに、なんで追いかけてくるの!?」という思いをずっと持っていたわけです。1巻で出会った榊はそんな彼女の気持ちを最優先にしてくれて「幸せになろう、どんなに追いかけてきたって逃げ続ければいいよ」と言うのですが、はっきり言ってこれは根本的な解決ではないんですよね。
またノブは自身の逃避行にまわりの人を巻き込むことにも後ろめたい思いを抱いている。榊としては死ぬまで付き合う気でいるわけですが、その後ろめたさへの非共感的な姿勢は、すでに別れの兆しであろう。榊は優しいんだけど、視界はまだ狭い。
などといろいろ問題はあったのですが、最大の問題は「これまでのノブはひたすら逃げ回っていただけであった」という一点に尽きるでしょう。よくわからない巨大な謎組織から追いかけられて宇宙戦争だなんだと言われたって「そんなの知らない!」と耳をふさぐだけだった。彼女に実感できる話ではなかった。組織に追われる被害者だった。
逃げ回った末に宇宙にまで行って、自分の人生はどう足掻いても普通の生活とは程遠いものになりそうだと観念し始める。逃げても逃げても追ってくる。それなら、どうする?また逃げるのか?同じくらいの年の女の子が大事な人たちを守るために戦っているのに?

沖田はヘッドホンのマイクを握りしめた。
「やい司令官!聞こえてるだろう!てめえらのやってる宇宙開発とか進化ってのは、こんなことまでしてもやる価値があることなのか!」
 口もきけずに外を見つめている榊の肩に、誰かが手をおいた。榊は振り向いた。ノブはうつむき加減の視線で榊を見つめた。
「――あたし、わかったような気がする……」(P.277)

そしてノブは「逃げる」ことをやめる。4巻冒頭で榊にテレパシーを送ってまで「助けて」と言い続けてきた彼女が、榊を含める地球の人類を守るために戦う道を選ぶ。
このときノブは榊と一緒にエイリアンに立ち向かうわけではない。榊は世界を敵にしてもノブを守るつもりがあるけれど、それはノブが新たに見出した未来と合致しない。たとえば「君は無理に戦う必要なんてないんだ」、あるいは「君がそうしたいなら俺は応援するよ」なんて言葉は、ノブはもはや望んでいない。彼女は自分の能力と、逃げ回ってきた過去と、命を懸けて本気でエイリアンと戦うSCFと、向き合うことを決める。榊は優しかったし、彼がいたから今があるのは確かだけれど、だからといって一緒にいることを選ぶ必要はない。もはや榊と一緒にいる段階ではない。

うーん、よくできているな。なんのために戦うのかという人類永遠の悩みまで含まれている。
SCFの敵であるエイリアンは「人類は地球に引きこもっていろ、さもなくば全面戦争だ」と最後通牒を突きつけるわけですが、それに対するSCFの答えは全面戦争です。

「地球をぶっ壊すつもりかよ!」
 沖田は叫んだ。キーラーは、目を細めて学生たちを見た。
「何のために、我々が宇宙(ここ)にいると思っているのだ?」
「はん」沖田は肩をすくめた。「戦争やるためだろ」(P.199)

そう、SCFが大金を投入して月や衛星に基地を敷設するのは、エイリアンと戦争をやるためです。ではなぜ戦争をするのか?宇宙開発をあきらめれば彼らは手出しをしてこないのに。超能力をもつ民間人をスカウトしてまですることなのか。彼女は嫌がっているのに!
何故戦争という手段が必要なのか、という答えの一つがここにあるように思います。ハリウッドのヒーローたちは割とためらわずに「守るために戦う」という選択肢を取るし、日本でもそういうストーリーは受け入れられているけど(障害があったほうが燃えるし)、フィクションという制限を取り払った状況で、我々は覚悟して立ち向かえるだろうか?立ち向かうことをどのようにとらえるだろうか?沖田や榊はこの後どうやって生きていくのかなぁ。

ちなみにアニメやラノベにはセカイ系と呼ばれるジャンルがあって、明確には定義されにくい系統の一つなのですが、本書はセカイ系だと思う。鋭い打線で打ち返してる感があるけど、でもやっぱりセカイ系だと思う。

プロットやB級映画的掛け合いは非常に面白かったです、けど、細かい部分を文字にしてもっと深堀りしてほしかった不満は残る。
あぁ、不満があるから認めるのが癪ではありますが、それでもやっぱり面白かったな。