好物日記

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東京都写真美術館「嶋田忠 野生の瞬間」に行ってきました

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最近暗いニュースばかりで気分が落ち込んでいたので、世界が美しいことを思い出すために写真展に行ってきました。
昔から空を飛ぶものが好きで、もちろん鳥は今も昔も大好きです。翼があるっていう、もうそれだけで憧れの生き物だ。なにものにも縛られずどこへでも自由に飛んでいくことができそうに見えるくせに、力学的には重力がないと空を飛べないというところも良い。この世の真理を体現している気がしませんか…。というかそもそも空を飛ぶという道に進んだわりにはしっかり身体が重いんですよね。よくあれで空を飛ぶな。
ちなみに個人的に一番好きな鳥はフラミンゴです。前はなんともなかったのに、ヒッチコックの『鳥』を観てからは、カモメを見るとちょっと後ずさるようになりました。でもカラスやハトは平気なままだ。

それはともかく。私はまったく写真家には詳しくないのですが、嶋田さんの経歴を見るとこれまでも絶対どこかでお目にかかったことがある写真を撮られてるだろうなと思いました。めちゃくちゃ撮っていらっしゃるので。

展示は大きく5つのゾーンに分かれています。最初は1970年代に武蔵野や新潟で撮ったふるさとの鳥。嶋田さんが写真家にめざめるきっかけとなったカワセミの写真が多いです。輝く碧が美しい。次が1980年から現在にかけて北海道で撮り続けた写真。カワラヒワとかオオワシとかコノハズクとか。そして暗い部屋が間に挟んであって、そこはアカショウビンシマフクロウの特設部屋です。

あの、私この展覧会で初めてアカショウビンのことを知ったのですが、めちゃくちゃ美しいんですよ。全身輝くような真っ赤な羽で覆われていて、川で狩りをするんです。あの長い嘴と凶悪な面構えがめちゃくちゃ格好いい。今改めてグーグルで画像探すと、けっこうかわいらしい顔のアカショウビンが出てくるんですが、あの展覧会に飾られていたアカショウビンの神格オーラはすごかった。黒い瞳がじっとこちらを見ている構図が目に焼き付いています。これがプロが撮るということなのか…狩りをしている写真の迫力がすごくて、そのシャッター切った瞬間に、サバイブ感が凝縮されていた。すごかった。

シマフクロウが格好いいのはいうまでもないですが、いちおう言っておきましょうね。めちゃくちゃ格好いいです!猛禽の王者は鷹だと思っていますが、シマフクロウも負けてはいません。こっちはこっちでまた神々しい。あの眼力が素晴らしい。金色に輝くあの丸い瞳よ。もしかしたら闇夜には月よりも明るく輝くのではないか。

特設部屋が格好良すぎてくらくらしながら出ると、再び明るい会場に戻ります。今度は2009年頃から北海道で撮られたヤマセミ、シマエナガオオワシの3つのコーナーに分かれています。一番有名なのはやっぱりシマエナガでしょうね。あのかわいらしさは何なのか!あのつぶらな瞳は何なのか!かわいい!
そしてヤマセミも、見た目は地味なのですが、好きでした。彼も川で狩りをするのですが、あまりに寒すぎて嘴に付いた水滴が瞬時に凍るのだとか。実際に嘴が凍っているのがわかる写真もありました。そんな姿がストイックで格好いい。そのくせ狩りをするときにはダイナミックにがばっと行って、捕まえた魚は木の枝に打ちつけて殺してからいただきますをするらしい。ワイルド。

最後のゾーンはパプアニューギニアの極楽鳥の求愛ダンスがメインで、2000年頃から撮りつづけているようです。喉を膨らませた鳥たちがヴィヴィッドな羽色を見せびらかす写真が多いのですが、本当に、めちゃくちゃ派手な色ですね。画家が南の島に行くと軒並み原色に近い色で濃ゆい絵を描くようになるの、わかる気がします。あんなん毎日見てたら、そりゃあ視界の彩度のスタンダードも上がるというものだ。

しかし鳥って不思議な生き物だなぁ。空を飛ぶっていう、その発想が驚異的だ。かわいらしい小鳥も和むけど、猛禽類の眼はかなり好きで見惚れてしまう。いろんな鳥のいろんな写真が盛りだくさんで幸せでした。世界の美しさを再認識できました。