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三方行成『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』を読みました

トランスヒューマンガンマ線バースト童話集

トランスヒューマンガンマ線バースト童話集

『流れよわが涙、と孔明は言った』の三方行成デビュー作。諸事情によりデビュー作を後に読むことになりましたが、実際に書かれた時期を考えればむしろこっちが後ではないか。2018年のハヤカワSFコンテストで優勝賞受賞作です。巻末にコンテストで最終選考に残った6作の講評も載っている。

肉体から解き放たれた人類の進化系である「トランスヒューマン」の世界を童話の舞台としたら…というパロディものです。元ネタはシンデレラ、竹取物語、白雪姫など全6話。
シンデレラというのは結構パロディしやすい題材ではありますが、「地球灰かぶり姫」、書いていて楽しかったんじゃないかなぁ。トランスヒューマンの世界線と一番うまく組み合わさっていて、キャラクタも立っていて、気軽に読めて笑えて面白かったです。三方節が良い。

「<サルベ-ジャ>VS甲殻機動隊」は元ネタ(多分さるかに合戦?)の要素がほとんど見られませんが、ちょっとした怪奇小説ぽくて好みでした。トランスヒューマンの廃墟でカニを隊長とする甲殻機動隊が未知の敵と戦う話。隊員のテナガエビとシャコがいい味出しているのですが、これに限らず全体的に三方行成のキャラクタの立て方の上手さはライトノベル的なものがある。「モンティ・ホールころりん」のナンセンスぶりはやっぱり谷山浩子的世界を感じるし、いろんなところでちょくちょくネタを仕込んでくるあたりが西尾維新を彷彿とさせる。全体的に頭空っぽにして単純に面白がることができるエンタメ小説です。賢しらにうまくまとめようとしてないところに好感を持ちました。面白いことが第一義である。

しかし最後の講評にも書かれているのですが、最初の3つの話は普通に童話のパロディなのですが、後の3つはいまいち元ネタの生かし具合が弱くて惜しかった感じがどうしても否めない。なんか無理に連作短編という形にしなくてもいいのでは(今回はコンテストにあたって枚数が必要だったわけですが)。あるいは『流れよわが涙、と孔明は言った』に収められていた『折り紙食堂』くらいの連作にしておくとか。長編を読んでみたい気持ちはあるけど、短編を極めるのもいいかもしれないですね。

自分と同年代の人が書いているのを見ると、その人がこれまで触れてきたものとか体験してきた世界とかがリアルにわかるので、あぁこれはあの人に影響を受けているんだなとか、そういうのがすっと理解できるのが面白い。古い時代の小説とかを読んで、それはそれで面白いのだけど、そういうときとは面白がり方が違うのが自分でもわかる。ノリになじみがあるというか。電撃文庫読んでたんだろうなとか、角川スニーカー文庫も読んでいたかもなとか、ネット文化になじんでいる世代だなとか。学んで知るのではなくて、そういうんだろうな、というただの推測だけど、リアルタイム感が面白い。同じ世代が活躍する年代になってようやくわかる面白さだ…
今後自分より下の年齢の人たちが第一線になるのを見ることになるんだなぁ。すでにそういう人が結構出てきてはいるけど、まだ新人枠だからちょっと違う。自分より年下が第一線という年代になったときにどんな気持ちで読むことになるのか、今から楽しみです。