- 作者: スー・グラフトン,嵯峨静江
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1987/03
- メディア: 文庫
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父親から譲り受けた本の1冊です。女性作家による女探偵ハードボイルドです。久々に正統派ミステリーを読みました。
舞台はアメリカ西海岸。弁護士の夫を毒殺した容疑で逮捕された女性が、服役を終えて探偵のもとにやってくることで事件が始まります。彼女曰く、身の潔白を証明したいと。
ミステリにもいくつかの様式美にも似た類型があり、いろいろ読んでいると「これはこういうパターンか」と思うようになってきます。しかしこの小説は設定にいくつか捻りがあるのが目新しかった。
ひとつは、事件が起きたのは8年前だということ。探偵が聞き込みをすべき相手は事件のことをそこまで詳しく覚えていないだろうし、現場も片付けられている。探偵にとって不利な条件です。
もうひとつ、殺人の方法が常備薬をつかった毒殺だということ。これは作中でも言われているのですが、犯人はターゲットが飲む薬のケースに毒入りの薬を混ぜておけばいいだけなので「この時間帯に被害者と一緒にいた人物」という探し方ではなくなるのです。これは事件を調査するのが8年後であるという探偵のタイムラグに配慮した設定(犯人がミステリ作品としての構成を考慮して動いてくれるわけはないので、メタい話になりますが)なのでしょうが、その分容疑者の幅が広がります。
そして最後、小説の冒頭3行の衝撃です。
わたしの名前はキンジー・ミルホーン。カリフォルニア州でのライセンスを持った私立探偵である。年齢は三十二、二度の離婚経験があり、子供はいない。おとといある人物を殺害し、その事実がいまも胸に重くのしかかっている。(後略)
読者は突然、語り手でもある主人公の探偵からさらりと殺人を告白されるのです。な、なんだってー!という感じでした…。これは探偵=犯人という想定をしなきゃいけないのかな?と思って読み進めると、すでに警察には届け出ているというし、事件は8年前だというのも明らかになるので、きっと犯人逮捕のいざこざで正当防衛だったんだろうなと見当をつけるのですが、じゃあ誰を殺したの?という謎が残る。つかみはオッケー、というような戦法で、まんまとのめりこみました…
そんなこんなで女探偵が奮闘するミステリです。車で事件の関係者に会いに行ったり、ジョギングをしたり、魅力的な男性とちょっといい感じになったり、泥のように眠ったりする主人公が、すごくアメリカンな感じがしました。この作品は1982年にアメリカで発表されたらしいのですが、女探偵が等身大で生きるようすを理想的に描いている感じがアメリカっぽいなと思いました。
表紙の黄色い車も格好いい。面白かったです。