好物日記

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MIHO MUSEUM「大徳寺龍光院 国宝曜変天目と破草鞋」を観てきました

www.miho.or.jp


曜変天目茶碗とは釉薬と窯の火力の化学反応により、器に星が輝くような斑点が生じた茶碗のことです。中国の特定の時代の特定の窯で焼かれたものだけが特に曜変天目と呼ばれ、なぜか世界に3つしかない、そしてなぜかそれらが日本にしかないという謎の茶碗でもあります。
日本にある3つの曜変天目は、東京の静嘉堂文庫、大阪の藤田美術館、京都の大徳寺龍光院がそれぞれ所蔵しています。しかし大徳寺龍光院蔵の曜変天目は普段は非公開で、めったにお目にかかれません。

それが!今回!なんでか知りませんが三つが同時に公開されているのです。藤田美術館静嘉堂文庫はまた機会があれば公開されるかもしれませんが、大徳寺龍光寺の茶碗は次いつお目にかかれるかわかったものではありません。これが行かずにいられましょうか!!しかも写真で見る限り、3つの中で一番私好みなのが大徳寺龍光院の茶碗なんだ!

というわけで、大徳寺龍光院曜変天目を公開している滋賀県信楽にあるMIHO MUSEUMにはるばる行ってきました。滋賀県石山駅からバスで約1時間。土日は恐ろしく混むということを聞いていたので、平日の代休を利用して行きました。いやぁ、満足。曜変天目もさることながら、MIHO MUSEUMの所蔵品が好みの品が多くてとても楽しかったです。

MIHO MUSEUMのことは今回初めて知ったのですが、1997年オープンの綺麗な施設でした。建築はルーヴル美術館のガラスのピラミッドを設計したI.M.ペイ氏。美術館エントランス棟から展示棟に行くまでに桜並木とトンネルを通って少し歩くのですが、ちょうど枝垂れ桜が満開で綺麗でした。施設の設計テーマが「桃源郷」とのことだったので、あのトンネルが俗世との境界を表しているんだろうな。
某宗教団体創始者のコレクションを基に作られた美術館ですが、初代館長が梅原猛、現館長が熊倉功夫で、わりと学術寄りの施設のようでした。所蔵品展はガンダーラの仏像やエジプトの隼頭神像、ペルシャのお椀や水差しなど、古美術盛り沢山で非常にテンションが上がります。展示品には詳細なキャプションが無く(一部例外あり)音声ガイドの有料貸し出しだけだったのがちょっと物足りなかったですが…海外の方が結構いたので、複数言語で音声だけ用意しておくスタイルのほうが効率がいいのかな。

所蔵品展はのんびり見られたのですが、曜変天目を展示している企画展ゾーンでは、会場に入るまでに10分くらい並びました。曜変天目は上からも覗き込めるようにステップも用意されていて、そこまで激込みというほどでもなく、割と見やすかったです。手のひらにおさまる宇宙、というのは茶人から見るとどうなんだろう、持ち主がお坊さんなら、世界を手に取るというよりは、世界の真理を覗き込むほうが魅力的かな?これで実際にお茶を立てたことがあるんだろうか?今は国宝だから純粋に観賞用だけど、茶碗として生まれたからには一度くらい使われなければ浮かばれない気もします。
大徳寺龍光院開祖の江月和尚ゆかりの品なども展示されていましたが、彼自身が大店のぼんとしての生まれで茶道に精通していたらしく、全体的に風流な雰囲気でした。大徳寺龍光院曜変天目は3つの中で最も地味というのが定評らしく、実際輝きも抑えめでそこが私も好きなのですが、その地味さが茶人好みなのかもなぁと思います。

しかし正直私は、国宝になっている大徳寺龍光院曜変天目よりも、重要文化財MIHO MUSEUM所蔵の「耀変天目」のほうが好みでした。この茶碗は前田家伝来のもので、一時は大佛次郎が持っていたこともあるとのこと。3つの耀変天目に比べると輝きが足りず、「曜変天目」として認めるかどうかで意見が分かれているのだとか。
しかしそんな名札なんぞ別にいいんです、国宝だろうが重文だろうが、私はあの控えめな輝きの天目茶碗が一番好みでした。釉薬を垂らした裾がぽってりしていて、黒いシックな色味になじむような群青っぽい星が散っていて、これぞ夜空、天はわが掌中にあり、という感じ。お茶の色が映えるだろうな、美しかったな。並ぶ必要もなく、むしろ空いているくらいだったので、じっくり観られたのも良かった。あの一碗に出会えたのは大きな収穫でした。すっかり気に入ってしまった。行ってよかった。

大徳寺龍光院の企画展は2019/5/19まで、今の所蔵品展は2019/12/19までとのことです。
所蔵品展の詳細は下記リンクよりご参照ください。ぜひ、重文の耀変天目をご覧になって…美しいから…

www.miho.or.jp