好物日記

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林譲治『星系出雲の兵站2』を読みました

星系出雲の兵站 2 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站 2 (ハヤカワ文庫JA)

1巻を読んでからだいぶ時間が空いてしまったので最初は記憶が曖昧でしたが、登場人物と謎の敵ガイナスのことをだんだん思い出し、ほとんど一気に読みました。面白かった!!

播種船によって5つの星系に植民し文明を再構築した人類が謎の敵ガイナスと戦争するミリタリーSF、というのがシリーズのかなりおおざっぱなストーリーです。私はミリタリー系はほとんど知識ないので、ほかのミリタリーものと比較するのが難しいんですが、兵站、つまり物資補給に主眼を置いているのは最近のトレンドな気がします。孫子を読んでも歴史を振り返っても、補給物資の確保がいかに大事かはよくわかるんですが、主人公には置きにくい地味な部分だというのがこれまでの通説だったように思います。それを漫画『大砲とスタンプ』で珍しく兵站軍の女性を主人公に据えて話題になったあたりから兵站の役所仕事ぶりなんかが若干コミカルに描かれるようになったのかな、と。
しかし実際戦争の肝は情報と物資ですよね。それらを左右するのが駆け引きと兵站なんだよなぁ。

ミリタリー偏差値の低い私は巡洋艦とか駆逐艦とか言われてもいまいちイメージ湧かないのですが、彼らがドローンで偵察機を出したり戦術AIを使ったりしているのを非常に興味深く読んでいます。ようやく人類は戦争に馬を必要としなくなったけど、ヒトはどうしても必要なんだな、と。作中ではこれこれこういう意図があって彼はこういう判断をした、というのがかなり丁寧に書かれているので初心者にもわかりやすいです。例えば敵の要塞に近づいて偵察するにあたって、戦術AIと軍人ひとりが警備艇に乗り込む場面があるのですが、わざわざ人間が乗り込むという点についてしっかり説明しているのが印象的でした。

人間が乗っていなければならないのは、要塞接近に伴うガイナス側の反応の変化に対してAIへの適切な指示を与えるためだ。
(中略)
ともかく状況は変化し、戦術AIはそのつど、何を重点的に観察すべきかの支持を仰いでくる。小型艇ゆえにセンサーの性能や数にも限界があるから、優先順位をつけねばならないためだろう。その判断は人間にしかできない。

どんなに情報技術が発達しても機械は自発的に戦争をする理由がないので、戦うのは人間の役目なのでしょう。目的に応じて手段を組み立てることはできるけど、複数ある手法のうちどれを採用するか決めるには、事前に採用プログラムを組んでおく必要がある。コンピュータというのはどんなに高性能でも、命令されたことしかこなせないんですよね。
私がSFを好む理由のひとつは、技術が進歩することで人間社会がどう変わっていくかという仮説のバリエーションが興味深いからです。機械が自由意志を持たない世界が続くのであれば、人間こそが「考える」という仕事を続けざるを得ないのだろうなと思います。しかし人間だって有機体の限界というのはあるわけで、細胞レベルで自由意志や思考の制限をされているに違いないので、そうなると人間と機械の違いなんて些末なことでは?というジャンルのSFになる、それはまた別の話。

話を戻すと、作中では「人間にしかできないこと」の領域がかなり具体的に書かれています。それは謎の敵ガイナスの異質さを浮き彫りにする意図もあるんでしょうが、なんだかなー、作為的なように感じます。シリーズの面白さの一つが「ガイナスって何者なの?」というところにあるのは明らかなのですが、人間との対比をやたらに強調しているのが怪しい。ミスリードされてないか?
ということで私は、謎の敵ガイナスは別の播種船の人類が遺した機械群じゃないかと思っています。いわばラピュタのような、主を亡くし命令だけが残って補給物資をひたすら作り続けている自律機構。登場人物の名前が日系に偏っているあたり非常に怪しくて、民族ごとに播種船出したなら、別の播種船の末裔と邂逅するのもありうるのではなかろうか。
私はそういうところをヒントに疑っているけど、理系の知識がある人はそっちのアプローチからこれは変だろ、とか思っているんだろうなぁ、というのをこの間某読書会で感じたので、そういうアプローチで読む人の仮説も気になるところではあります。

あとこのシリーズはキャラクタ小説でもあって、火伏夫妻が可愛すぎてたまらないです。兵站監殿、家と外の顔が違いすぎませんか。だがそこがいい。
そしてこの巻で大失敗をやらかす人がひとりいるんですが、作中のあらゆる人からダメな奴とみなされており、実際読者もお前それはないだろ、と思うわけですが、実際自分がそういう立場に立った時に、はたから見れば「それはないだろ」と思う行為をついやってしまうことがあるかもしれないなぁと思われてならないです。こういう読み方をするようになったのも、私が大人になったってことなのかなぁ。仕事の立場も変わってくるもんなぁ。実際こないだちょっとやらかしちゃったしなぁ。とはいえ「自分もやっちゃうかもしれないから仕方ないよね」という話ではなくて、フィクションの脱落者を反面教師にして自身の行動をいかに修正できるかが肝だとは思うのですが。精進します。

続きもすでに出ているので、読まなくては!