- 作者: 瀬戸内晴美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1984/03
- メディア: 文庫
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実家の引っ越しに伴い引き取った本のひとつ。元々は10年以上前に亡くなった祖母の本でした。奥付から推測するに、祖母が70歳くらいのころ、まだ京都に住んでいたころに買った可能性が高そう。祖母は京都人で、関東の我が家で一緒に住んでいたときも年に一度は関西の親戚の家に長期滞在していました。祖母が留守の間、仏壇にお線香をあげるのは私の役目でした。懐かしいなぁ。
瀬戸内さんの本を読んだのはたぶん初めてのはずです。波乱万丈な人生の人なのでその半生については耳にしてましたが、長く京都にいらしたんですね。京都や奈良にまつわる著者の思い出や、その土地土地の歴史について語られているエッセイです。彼女は天台宗の僧侶なのでそういう話がちらほら出てきて、出家の修行で何をするのかが知れたのが興味深かった。
西洋史をみてるとローマ帝国という恐ろしいほど歴史の長い国家が結構な史料を残していて、それはそれで面白いのですが、日本史はまるで神話のような時代が紀元後まで続いていて、そこに妄想の余地があって好きです。天皇陵は宮内庁がなかなか科学調査をさせてくれないというのを大学時代に聞いたなぁ、とか思い出しながら読んでいました。あそこを調査すればかなり史実が明らかになるのに!とその道のひとが悔しがっていた。いわば墓を暴くわけですから宮内庁の立場もわからなくはないですが、エジプトのピラミッドのように、敬意をもって調査をするなら天皇家も許してくれるのでは、とも思います。妄想の余地のある神話も楽しいけど、やはりディティールが明らかになることでより具体的に想像できるようになるのも良いことなので、これから調査が進むといいなぁ。どんなに歴史が明らかになっても無名の個人の行動がすべて明らかになるわけではないので、心配せずどんどん調査をしてほしい。
フィクション作品の聖地巡礼はほぼしないのですが、歴史的な場面が展開された土地で思いを馳せるのは好きです。京都にはそんなポイントが山のようにある。
全18編のうち、印象的だったのは清少納言について書いた「鳥部野陵」です。一条天皇の皇后である定子に仕え、『枕草子』を書いた清少納言の晩年が寂しいものだったというのを初めて知りました。のちに権力を握る藤原道長の策略によって定子の生家である中関白家が追い落とされていく過程が非常にドラマチックなようなので、すでに誰かが書いていそうですが、物語として読みたいなぁ。平家物語といい、義経記といい、栄華の絶頂から追い落とされる諸行無常ぶりに惹かれるのは、ワイドショー的な野次馬根性を我が身に感じて浅ましい気もするのですが、でも好きです。斜陽の美学ってあると思うんですよね…
ほかにも二月堂のお水取りレポートとか、菅原道真の話とか、内容盛りだくさんで面白かったです。これこれにこう書かれている、とかかなりしっかり書いてあるのも良い。京都のその場所に行ったときに読み返したくなりそうです。
祖母もそう思って、関東に越すときに一緒に持ってきたのかなぁ。引っ越しで京都に移った両親に、今度帰省する時に持っていこうかと思います。