好物日記

本を読んだり美術館に行ったりする人の日記

松岡正剛『雑品屋セイゴオ』を読みました

雑品屋セイゴオ

雑品屋セイゴオ

雑誌『NW-SF』に、1970年代当時30代だった著者がモノについてのあれこれを綴っていたエッセイを一冊にまとめた本です。菊池慶矩の絵がまた非常に良い。
雑誌連載当時の扉絵は,まりの・るうにいが描いていたそうなんですが、奥様なんですね。
最近古い本を読んだときに、昔の文章を復刊するって善し悪しだなぁと思うことが多かったのですが、これは書籍化の編集自体は今行われたということもあってか、タイムラグはまったく気になりませんでした。

しかし書籍化するにあたって多少手を加えたとはいえ、これを30代で書いたって、さすが松岡正剛だな…
古今東西から引用してくる博覧強記ぶりがすでに松岡正剛として出来上がっている感がすごいんですが、今回は少年時代の思い出が多々出てくるので、いつもに増してチャーミングな印象です。少年の魅力がある。機内誌のコラムで時折見かけるタイプの、ひとつのモノについての愛着を語るタイプの文章が私は好きなのですが、この本はそれのオンパレードで非常に楽しかったです。しかも品数が多くて読みごたえがある。「龍角散」のナオール言語は笑いました。「UFO」のひとつの質問文に対する考察も好き。
あらゆる人名や署名、横文字の思想用語をいちいち調べていると全然進まないので、割り切ってある程度文脈で判断して読み切っちゃいましたが、できればもう一度じっくりと読んで、個々の固有名詞を追いかけたい。こういう文章のスタイルを衒学的だと感じる人もいるとは思いますが、私にはこれがたまらないんですよ…。正剛さんがやると嫌みがないんですよね。本当に血肉になっているんだろうな、と思うからでしょうか。そう感じるのは、考察が深いからだと思います。知っている、だけではなくて、知っていることから応用して考えて書いているのがよくわかる文章なんですよね。言語は一種の変数なので、例えば3行にわたって説明したい概念なんかを単語ひとつで伝えられるならそれに越したことはない。ほかに的確な比喩や具体例もそういうテクニックの一つですが、正剛さんは伝えたい概念を伝える変数を自分の中でたくさんストックしている印象。こういうときはこれ、というのがすごく整理されているように感じて、憧れます。

あと「いずれやってみたいと思っている」がちょくちょく出てくるんですけど、どれくらい実現したんでしょうか。結構手広くやってらっしゃるから、いくつかは実際にやっている気がする。「年表」なんかはやっていなかったかな?一番気になった「二十八部衆」のスペース・オペラ、2020年にやらないかなぁ。

なおこの本は雑誌『NW-SF』を創刊し2017年に亡くなられた山野浩一に捧げられています。彼の作品は未読なのですが、気になったので読みたいリストに入れておきました。創元SF文庫なら読めるらしい。
ほかにもこの本を読んで気になった事物はメモってあるので、私の気になるリストがさらに長くなりました…人生が足りない。